つくる、つくりたい、つくるから
マイアとツバメを手のひらの上に乗せた。モグラは収納ボックスごとゴミに出した。消毒液を含ませたティッシュでマイアの体を拭いていった。マイアは泣かなかった。ツバメの羽はどうしたらいいのかわからなかった。「しぬ?」とマイアが私に聞いた。「死なないよ。うまく飛べないだけ」「とぶ?」「ほら、こう、翼を、鳥の、手みたいなところを動かして――」私ははばたくみたいなジェスチャーをした。「空にいくこと。どこかに、逃げるみたいにして。わかった?」わかったとはマイアはいわず、「にげる」とつぶやいた。
ツバメを獣医さんのところに持っていった。ツバメの名前を聞かれたとき、とっさに「1号です」と答えた。しばらく入院しないといけないけれど、治るみたいだ。こっそりマイアも連れていった。「家、作らないとね」と帰り道でいった。「つくる、つくりたい」
でも結局、マイアひとりでできることはなんにもなかった。体が大きくなっているとはいえ、なにも折ることさえできなかったし、テープをちぎろうとしたら蜘蛛の巣に捕えられたみたいになった。「手伝おうか」と私が何度いってもマイアは首をふった。「つくるから」私はマイアが傷ついていくのをじっと見ていた。
1号が帰ってくるまで、なんの生きものも拾ってこなかった。
あるとき、マイアは気持ちを閉じ込めようとするみたいに、ガチャガチャのカプセルのなかに入ろうとした。マイアは下半身をカプセルの半球のなかに入れ、ヘルメットみたいにもう半分のカプセルを被っていた。ひとりでカプセルを閉じることなんてできないと思って放っておいたら、マイアは曲線で滑って空回りしながらも足を素早く動かしてカプセルごと自分を壁際までいって、壁に激しく頭突きをしてカプセルを閉じた。マイアは、大きくなっていく体を殺そうとするかのように、窮屈なカプセルのなかで体を縮めていた。私がカプセルを掴んで開けようとすると、丸まったマイアが私を睨んでいた。「なに」私がいった。「なによ」マイアが私を睨みつづける。「なんなんだよ」カプセルを割ろうとした。確かに、なかに、マイアが入っているから、割ろうとした。でも、力をくわえたらカプセルが開いた。マイアはまだ睨んでいた。
次の日、起きてまず、マイアにあやまった。「ごめんね、私、いらいらしてたんだ」マイアははじめてこの家にきたときのように、スピーカーの空き箱に入ってねむっていた。ねむったふりをしていたんだと思う。私だったらそうするから。あのときよりも箱が小さく見えた。クローゼットの奥にしまっていたのに。「出かけてくるね。帰りに、1号引き取ってくるからね」
つくる、つくりたい、つくるから