テーマ:二次創作 / おやゆび姫

つくる、つくりたい、つくるから

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読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「ずっとポケットのなかじゃいけないよね。頭の上もあぶないし」荷解きが終わったあと、マイアに向かっていった。マイアは指の関節を曲げるみたいにうなずいた。「家、ほしい?」「あかん!」「だめなの?」マイアが首を振った。「まだうまくしゃべれない?」マイアがうなずいた。「家、ほしい?」マイアがうなずいた。「用意するから、しばらくそこね」といってマイアが入った箱を閉じた。
最初の家はクルミの殻で充分だった。大量にあるダンボールで家を作ってもいいかと思ったけれど、クルミの殻とかおしゃれだと思った。写真を撮った。でもマイアみたいな人間は珍しくて攻撃の的になるかもしれないからSNSにあげることはしなかった。クルミの殻だとおしりや背中が痛いかもしれないと思って、いっしょに持ってきたチューリップから花びらをちぎって殻に敷いた。チューリップの花はけっこう役立ってくれた。しばらくはマイアの服や、水を張ったお皿のなかでのボートになってくれたりした。チューリップの花びらはどんどんなくなっていった。マイアを産んだら、あとは死に向かうだけだった。
「あんた、なにか食べたりするの?」あるときマイアに聞いた。マイアは私をじっと見るだけだった。「あ、もしかして、食べる、ってことが、わからない?」マイアが首を傾げた。私の親指はそんな風には曲がらない。「えーっとねぇ」といいながら私はカバンのなかを探って、小さいポケットに入っていたいつのものだかよくわからない飴を口に入れて、噛み砕いて見せた。「わかる? やってみる?」マイアがうなずいた。私は飴の破片を口のなかから取り出してマイアに与えた。マイアは破片を噛んだけれど、小さい体ではやっぱり硬いらしくて食べることはできなかった。代わりにマイアは飴の破片に手をあてて、離し、糸を引く私の唾液であそんでいた。
次の日、目が覚めてまず、それ以前もしていたようにベッド脇のサイドテーブルを見た。マイアがクルミの殻の上で、腐れかけの花びらを抱いてねむっていた。「おはよう」と私は小さな声でいった。「あれ?」飴がなくなっていた。落ちたのだろうかと床を見ても、サイドテーブルやベッドの下を見ても飴の破片はなかった。と、マイアの目が開いてんーっと伸びをした。「飴、食べちゃった?」と聞いたら、マイアはうなずいた。それから、まるでハイハイすることを覚えたばかりの赤ちゃんのように、テーブルの縁にある私の指に向かって歩き出した。マイアがこけて頭を打った。「大丈夫? 泣く?」マイアがころんだところを触ると濡れていた。におってみると、麦みたいなにおいがした。「おしっこ、出ちゃうようになったんだ」マイアをつまんで持ち上げてにおってみた。「お風呂って、わかる?」

つくる、つくりたい、つくるから

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