テーマ:二次創作 / おやゆび姫

つくる、つくりたい、つくるから

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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湯呑にぬるま湯を張って、マイアをお風呂に入れた。力加減が難しくて、両手の小指を擦り合わせるみたいにしてマイアを洗った。それでも巨大なダニみたいにつぶしてしまったらどうしようかと思って、まだ残っていた花びらでくすぐるみたいに洗った。垢みたいなのが出てきた。きょうははじめてのことばかりだ。
肺活量をテストするみたいに息を吹きかけてマイアを乾かしていると、体の表面がきらきらしていることに気づいた。なんだろうと思って見るとうぶ毛だった。「これから、人間になっちゃうの?」と聞くと、マイアは意味がわからないみたいに甲高く笑った。ちぎったティッシュを二枚重ねて、おむつにした。ふんどしを履いているみたいでかわいかった。私がマイアの前であやとりをしていると、赤外線センサーをくぐり抜けるスパイみたいにマイアが隙間をくぐり抜けた。私もマイアも楽しくて何度もやっていると、うっかりマイアがぐるぐる巻きになって、泣いた。「あかん、あかん」とマイアがいった。ひさしぶりにしゃべった。糸をほどいてあげると、それまでわざと泣いていたみたいに泣きやんだ。
あしたから私がハローワークにいっているあいだマイアひとりじゃさびしいだろうと思って、マイアをポケットに入れて近所の神社にいった。思えば引っ越してきてから、スーパーやコンビニにいく以外に外出したのははじめてだった。蜂が飛んできて、私はマイアを守るために時代劇とかに出てきそうなゴマすり商人みたいに組み合わせた両手のなかにマイアを入れて歩いた。神社は長い階段の上にあって、息が切れた。「あ、あった。いた。いそうな気がしてた」ポケットから取り出したビニール袋のなかに捕まえたヒキガエルを入れて持ち帰った。「マイアも、ヒキガエル好きだよね? 私の子どもだもんね?」ビニール袋を内側から殴るみたいに暴れるヒキガエルを手に持ちながらホームセンターにいった。ふたりで暮らすにはさすがにクルミの殻は狭いだろうからと、割り箸とかクリップとか画用紙とか、家の道具になりそうなものはなんでも買った。
家に帰って、ふたりの家を作るあいだに少しでもマイアと30号――30匹目に飼うヒキガエルなので――の仲が深まるといいと思って、浅く水を入れたマグカップのなかにふたりを入れた。彩りが必要だと思って、道ばたでちぎってきた小さいハスの葉をなかに入れた。かつ、マイアには美しいものを鑑賞する習慣を持ってほしいと思って、ハスの葉の端に捕まえてきたモンシロチョウをくくりつけた。リボンを使って。

つくる、つくりたい、つくるから

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