テーマ:二次創作 / おやゆび姫

つくる、つくりたい、つくるから

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

 ハローワークにいく日だったけど、無理だった。動物病院が開く時間になると、すぐに1号を受け取った。「1号って名前、どう、ぶっちゃけ、微妙じゃないかな」と私は帰り道を歩きながら1号に話しかけた。「マイアにつけてもらう?」
 家に帰ると、バランスボールに乗るみたいに、たまねぎの上にマイアが乗っていた。「なにしてんの?」「りょうりをつくろうとおもって」「ただいま」「おかえり」
 ツバメの名前は「ツバメ」になった。「それでいいの?」と聞いても「それでいい」といわれた。「ずっとツバメだと思ってたし」「いや、間違いじゃないけど」「いいんだよ、ツバメで」「あ、はい。マイアがそれでよければ」
 ツバメはちゃんと飛べるようになっていた。鳥カゴは一応買ったけれど、でも私の目が届くときは家のなかに放してあげた。マイアの家も作らなかった。このマンションのこの部屋が私たちの家だった。マイアはしょっちゅう、まるで鳥の言葉がわかるみたいにツバメのさえずりに耳を傾け、自分でも「キーヴィ、キーヴィ」と鳴いた。夜中になっても、いつもより小さな声で、私に聞かれないように話し合っているのを、知ってた。
 なんとなく、この日だろうという予感はしていた。ハローワークから帰ってくると、マイアがツバメにぶら下がっていた。ツバメはマイアの重みで高度を下げながらも、必死で羽ばたいていた。逃げようとしていた。窓は開いていた。私が開けておいた。でも、やっぱり耐えきれなかった。「マイア! マイア!」私は叫んだ。でも、叫ぶだけだった。ツバメを叩き落とすことなんかできなかった。ふたりを説得しようとも思えなかった。「建築家になれたら、いいね」といった。

ちょうど、荷造りが終わったところだ。ハローワークのおばさんにまた引っ越すことを伝えると、すごく悲しんでくれて、なんか申し訳なかった。この家での最後の夜、夢を見た。そこは花ばかりの国。花しかない国。つらいことはなにもない。なんの脅威もない。たくさんのツバメが飛び交っている。マイアが作った家がある。私が作った家よりも、私たちが住んだのよりもずっと大きい家。その家の玄関が開くと、風が吹いて花が歌っていく。家から出てきたマイアはもっと大きくなっていて、私はマイアの親指ほどの大きさだ。マイアの顔には雲がかかっていて、鬼ギャルだろうかと、微笑みながら目が覚めた。

つくる、つくりたい、つくるから

ページ: 1 2 3 4 5 6 7 8 9

この作品を
みんなにシェア

4月期作品のトップへ