つくる、つくりたい、つくるから
30号は帰ってこなかった。31号を探す気にもならなかった。就活はうまくいかなかった。部屋が散らかっていった。マイアが使える言葉が増えていった。わがままになっていった。マイアが大きくなっていく。新しい家を作らないと。
電ノコで半分に切ったコップたちにやすりをかけて、断面をなめらかにする。裏返したかまぼこみたいに並べたコップたちの上に下敷きを接着剤で貼りつける。その上に、もう半分のコップたちを垂直に置いて、下敷きを囲んでいく。外壁のひとつのコップに穴を開けて、枠型に切り取って三枚重ねた画用紙を穴にはめ込み、端をテープでくっつけてドアとする。コップの上から家のなかに、割り箸で作った椅子やテーブル、麺棒を重ねたベッド、大さじの計量スプーンで作った簡易トイレを入れていく。とりあえずはこんなもんだろうか。
家を作っているあいだは日常のストレスを忘れることができたし、マイアも新居をよろこんでくれた。マイアはまるで耐震強度をテストするみたいに、家のなかで何度も飛び跳ねた。もうちょっと、頑丈にした方がいいな。
「ママ、けんちくか?」私がハローワークでもらってきた職業紹介冊子を体を使ってめくりながらマイアがいった。「字、読めるようになったんだね。お祝いしきゃ」といって私は、マイアにティッシュで目隠しをしたあと、がさごそ音を出すビニール袋を小さい家のなかにぶちまけた。にぎやかな方がいいかと思って道ばたで拾ってきた甲斐があった。マイアを家のなかに導いて、目隠しを取った。マイアはうれしいのか、震え出した。「じゃあね、おやすみ」家に大きなお皿の屋根を被せた。その日はコガネムシたちが鳴く声を聞きながらねむった。
朝起きて屋根を取ると、コガネムシたちがいなかった。「1号と2号と3号と4号と5号と6号と7号と8号と9号と10号と11号と12号と13号と14号と15号と16号と17号と18号どこにいったんだろう。家に、穴とか、開いてるのかな」マイアはなにもいわなかった。立て続けにショックな目に合わせてしまっている。次はちゃんとしてあげないと。「また、身長伸びたね、測ってあげよっか」なにも気にしていないみたいにいった。私が落ち込んで、それがマイアに感染したら嫌だ。マイアをこれから銃殺するみたいに壁の前に立たせて、頭の上に鉛筆で線を引いた。また家を作らないと。
今度は本だ。食パンの耳以外を切り抜くみたいに切り抜いた大きな図鑑を床と壁にして、細かいところは図鑑のページで補強して、それでもページはたくさん余ったからそれで家具を作った。シンプルだけどおしゃれだ、とだれかにいってほしいくらい。
つくる、つくりたい、つくるから