テーマ:二次創作 / おやゆび姫

つくる、つくりたい、つくるから

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読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 次の日はハローワークにいくことができた。前の職場の退職理由を聞かれて、どう答えたらいいのかと詰まってしまった。近所のおじいさんに詮索されたくないから、とかはいえないし。だからこれは半分本当のことだろうと思って、「子どもが生まれて、でも父親がいなくて、だから、その、なんというか、どこでもいいから、新しいところに引っ越して、新しい暮らしをスタートさせようと」。職員のおばさんはやる気を出したみたいで、逆に私が疲れてしまった。
 家に帰って「ただいまー」というと、マイアが犬みたいに駆け寄ってきてくれた。マイアを手のひらの上に乗せて持ち上げて、慎重に頬ずりした。「あ、ちょっとくさいな。お風呂入ってなかったもんね」
 水を入れたコップを500ワットで50秒温めたなかにマイアを入れて、爪の白いところくらいの量のボディソープを入れてぬるま湯をかき混ぜて渦巻きを起こしてあげるとマイアが笑った。「ちょっと声低くなってない?」「おかん」「え?」「おかん」「すごい」「おかん」「ママって、ママっていってみて」「マ?」「うわー」「もう一回、もう一回、ママ、ママ」「ママ」「すげー!」涙ぐんでしまった。そして写真を撮った。声だから意味はないけれど、マイアの写真を撮りたかった。〈マイアはじめてのママ〉とiPhoneに映る画像にタイトルをつけた。スワイプして他のマイアの写真を見て、成長を感じた。「あれ?」と、もう一度〈マイアはじめてのママ〉と他の画像を見比べてみた。「大きくなってない?」親指の半分の大きさだったマイアが、親指ひとつ分の大きさになっていた。「す、ごいなー。ええー? そっかぁ。そうなんだ。はあ。すごいなあ」コットンでできた服を自分ひとりで着ようとしているマイアを見てさらによろこんだ。
 ベッドにマイアとふたりでうつ伏せになって、私がポテトチップスを食べながらマンガを読み、私の口からこぼれる欠片をマイアが食べたりした。「太っちゃうよ」という私の顔はにやけきっていた。「私みたいになっちゃう」といって私はマイアをつまみあげて、もう一方の手で部屋着をめくり、マイアをおへその上に持っていった。「30号みたいにぶよぶよでしょ」といってはじめて気がついた。「あれ? 30号は?」
小さい家のなかは空だった。どこを探しても30号がいなかった。カバンのなかも、机のなかも、探したけれど見つからなかった。「家出、かなー?」と不安を紛らわすように無理にいってみた。「マイアにもなにもいわないなんて」と私がいったすぐあと、マイアが大きなげっぷをした。まるでヒキガエルの鳴き声みたいだった。

つくる、つくりたい、つくるから

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