つくる、つくりたい、つくるから
道ばたで拾ってきた野ネズミも次の日にはいなくなった。マイアが大きくなった。
次は立てかけた円柱型の収納ボックスだった。買ってきたそのままだった。「これが新しい家だから」といったとき、私は自分が手を抜いていること、マイアに意地悪したかったことに気づいた。「ごめん! やっぱりちがう!」といったときにはマイアはもう、オリエンタル風の茶色い格子で織り込まれた収納ボックスのなかに入っていて、「なにが?」といって笑った。「いいの? それで」「だからなにが?」「いや、あんたがいいならいいんだけど」ちょっとさびしかった。でも、本当にそうだ。マイアがよければそれでいいんだ。そしてマイアは、道ばたで拾ってきたツバメのことも気にいってくれた。ツバメは次の日にいなくなっていなかったし、その次の日も、その次の日の次の日もいなくならなかった。ツバメ用のパンくずをふたりで仲良く食べていた。「こうするんだよ」とマイアが手を使って口に放り込んだかと思えば、マイアがツバメみたいに斜め前に深い深いお辞儀をするようにパンくずをついばんだりした。ずっとこんな生活がつづけばいいと思っていた。
あるときマイアにこう聞いたことを、いまでもときどき思い出す。「将来はなにになりたいの?」「しょうらい?」「あしたの、あしたの、ずーっとあしたのこと」「ママは?」「私? 私は、うーん、なんだろう。マイアといたいかな」「それあしたじゃない、きょうだよ!」「はは、そうだね。で、マイアは?」「マイアもママといたい」「そうじゃなくて、なにになりたい?」「うーん、なんだろう。けんちくか?」「おお、それは、すごく、なんか、ママいい感じだわ」「ママいいかんじ?」「うん、ママいい感じ」「あとおにギャル!」「そっかー、鬼ギャルかー、いいんじゃない?」「いいよねー」
もっとマイアの友だちが増えればいいと思って、道ばたで拾ってきたモグラを家に入れたりしなきゃよかったのかもしれない。収納ボックスには格子と格子のあいだに、ツバメがつついた穴が開いていて、そこから見えてしまった。モグラがツバメをいじめているところが。そこだけ材質がちがうみたいなモグラの手がツバメの片方の翼を傷つけた。私はツバメを助けようとはしなかった。マイアがどう行動するかとじっと見ていた。マイアは床を砕き割るかのように踏み込んで、モグラに突進した。モグラがひるむと、マイアは下がって、そして収納ボックスがきしんだから、プロレスのリングを利用するみたいに、マイアが背中を壁に預け、反動を使ったんだと思う。視界に入ってきたマイアはまた一気にモグラに突進した。モグラが鳴いた。今度は別の方向の壁がきしみ、突進し、モグラが鳴き、別の方向の壁がきしみ――何度も、何度も繰り返されたあと、モグラがもう鳴かなくなった。家の上から覗き込むとマイアの体もたくさん傷ついていた。マイアはツバメのことを命がけで守っていた。
つくる、つくりたい、つくるから