テーマ:二次創作 / おやゆび姫

つくる、つくりたい、つくるから

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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近所の詮索好きのおじいさんたちから魔法使いじゃないかとうわさされているおばあさんから買った特別な大麦を植木ばちに植えたら子どもが生えた。女の子だ。名前はマイア。
そりゃ、子どもがほしくてたまらなかったから男の人とセックスしなくても子どもが生まれる薬でももらえたらいいなとおばあさんのところにいったわけだけど、まさかチューリップから子どもが生まれるなんて。そう、チューリップから、親指の半分の大きさの子どもが花開くみたいに生まれた。特別な大麦から芽が出て、すくすくと伸びるとチューリップになった。だったら最初からチューリップをくれたらよかったんじゃないかって思うけれど、いまとなってはおばあさんに聞く術はない。指定のゴミ置き場に出したゴミの中身をいちいち確かめたりする詮索好きのおじいさんたちから私もなにかいわれるんじゃないかと思ってマイアが生まれるとすぐに引っ越したからだ。はじめはチューリップといっしょにマイアを梱包して運んでもらおうかとも思った。人間というよりはあまりにおもちゃのようだったし、そのときにはまだ話すこともできなかったから。でも私にかろうじて残っている良心というもののために、私はマイアをポケットに入れて引っ越し業者のトラックのあとにつづいて新居に向かった。マイアは世界そのものがめずらしいようで、全開にした窓の枠に掴まって外を見ていて風で飛ばされそうになった。そのマイアを捕まえようとしたらハンドルがそれて事故りそうになった。しかも拍子にマイアを強く握り過ぎてしまった。マイアが激しく咳き込む音が聞こえないようにiPhoneでサイモン&ガーファンクルを流した。気まずかったけど無理して鼻歌を歌った。するとロードムービーの主人公みたいな気分になってマイアの苦しみはどうでもよくなった。
新しいマンションに着くと、マイアを頭の上に乗せながら荷解きをしていった。ばらして運んでもらった大きい本棚を組み立て直したり、レンジや炊飯器を置くべきところに置いているうちに汗が出て、まるでスポーツでもしているかのように熱中してきてしまって、引っ越し業者の人に入れてもらった冷蔵庫のコンセントをやっぱりもうひとつ奥のコンセントにさし直そうと屈んだときに、冷蔵庫と壁の隙間にマイアを落としてしまい、落としたことに気づかずに踏みつけそうになった。「あかん!」とマイアがスリッパに踏まれる直前に叫んだのだ。はじめてマイアが言葉を発したことがとてもうれしかった。「あかん!」「わっ」「あかんあかん!」「ごめんごめん」私はマイアをさっきまで小さいスピーカーを入れていた空き箱に入れて荷解きをつづけた。箱を殴りつける音や緩衝剤を引きちぎる音が聞こえて、けっこう楽しんでるんだと笑った。

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