午後の風景
連続テレビが終わると、孝子は、我に戻ったように
「そうだ。週末来るって淳子達より連絡があったわよ」
淳子は、夫婦の娘で、隣の町で世帯を持っており、二人子供がいる。
「そうか。淳子は、たまに来てくれるけど、息子の孝雄はサッパリ顔を見せないね。元気でやっているのかな?」
「淳子は、理羅ちゃんを連れて来るようですよ。健太は、来ないようだけど」
孝子の目尻が下がっている。理羅は小三、健太は中二だ。
「理羅は、来るたびに大きくなっていて、会うのが楽しみだな」
「二週間前に来たばかりでないですか」
孫のこととなると二人とも口の滑りが良くなる。
他愛のない話を続けていると、福田の携帯電話が鳴った。
佐藤からだった。
「福田さん、朝早くから申し訳ない。図書館の喫茶店で、ご一緒していた高木さん、最近お見掛けしないと思っていたら、入院しているらしいのですよ。それでお見舞いに行こうと思って、一緒に行きませんか?」
「え!入院。何の病気ですか」
「どうも癌らしいのです」
福田は、突然の話に驚いたが、一緒にお見舞いに行くことにした。
翌日、佐藤の運転する車で隣町の病院に行った。午後の早い時間に着くように出発する。
福田の他に、佐々木さんと山田さんも同乗していた。
病院の入口にある案内で尋ね、六階へ行きナースセンターで再度教えてもらう。
病室の入口には、入院者の名前が掲示されていた。
その名札で、高木のベッドを確認し、病室に入る。そこは、白いカーテンで四つに区切られており、その奥の右側が高木女史の病床だ。
控えめの声で挨拶し、部屋に入ったつもりだったが、それでも室内の静寂を破ったように思えた。カーテンは全て閉じられ、ひっそりとしている。
佐藤は、明るい声で呼びかけながらゆっくりとカーテンを開けた。
「高木さん、佐藤です。皆で見舞いに来ました」
彼の目に、白いネット状の包帯で頭を包んだ人が横たわっている姿が目に飛び込んで来た。そして驚いたように瞼を開けて起き上がろうとした。
佐藤は、手で制しながら
「如何ですか?」
佐々木さんと山田さん、そして福田もベッドを取り囲むようにして顔を覗き込む。
高木さんは、寝間着の胸元を合わせながらベッドの上に、そろそろと上半身を起こす。包帯から覗いて見える顔は、化粧気のない青白いもので以前とは別人に見える程、老け込んでいた。
「わざわざ来ていただいて」
弱々しいが、その声の主は、まさしく高木さんのものだ。
佐々木さんが、持参して来たお見舞いの果物の籠を差し出した。
午後の風景