クッカバラは元気
「え、直接?」
「だって、見てみないとわからないでしょ?」
「いや、いい。やっぱりやめる」
「なんでよ」
「だってこんなおしゃれな部屋、似合わないもん」
「似合うとか似合わないとか、服じゃないんだから」
「そうだよ、芹奈、いいと思ったんなら見てみるだけ見てみたら?」
なぜか彩乃まで乗り気だ。
「引っ越したら遊びに行くから」
「綾乃だって、写真見て素敵、って言ったんだから見に行けばいいじゃない」
「素敵だけど、あたしの趣味とはちょっと違う」
「じゃ、見に行くだけ一緒に行こうよ?」
「だってバイトがあるんだもん」
「えー。一人じゃ心細いよ」
「だいじょうぶだよ」
香苗は肩をすくめる。
「ぜんぜん普通の優しい子だから」
植物が好きで、農学部に入った広瀬結。佐藤香苗と同じ高校。それだけの情報で「会う」方も「行く」方もどうかしている。勢いって恐ろしい。
農学部? 緑の館? あたし、一体何をやってるの? おしゃれな部屋に住みたいとか、もうどうでもよくない?
断り切れずにここまで来てしまったあたしは馬鹿だ、と思いながらスマホの中の地図を確かめる。
いつもそうだ。なんとなく思い付きでしゃべって、調子に乗って、気がついたらなんだか妙な思っていたのとは違うことになっちゃって頭を抱える羽目になる。
あんな感じにしよう、とイメージしたのになんだか違う感じの髪形になってしまうことはしょっちゅうだし、この服とあの服が合うはず、と思ったのに買って帰って組み合わせてみたら全然ちぐはぐでがっかり、とかレシピとにらめっこして作った料理が写真と違う出来上がりになったり、なんかもうあたしの人生って……。
いっそもうドタキャンしてしまおうかとも思ったが、香苗の紹介だと思うとそういうわけにもいかず、うつむき加減でインターホンを押した。
「はーい」
化粧っ気のない顔、ショートカットの黒い髪、チノパンにだぼっとしたシャツをはおった広瀬結が「どうぞ」と大きくドアを開けた。
「こんにちは。中津です」
開いたドアの向こう側の世界に息を飲んだ。
緑。
緑だ。
ほんとうに、緑。
開け放してあるベランダにも、床にも、壁にも。
壁から生えているようにみえる白っぽい深緑色の植物、ぶらさがっているはっぱたちの、あふれるようなしたたるような緑。
「すごい……」
ぽかんとあたりを見回す。
「これは、エアープランツ。空気中にある水分で育つの。土がいらないから部屋の中で育てるのにいいよ。ポトスは水だけでも育つし」
クッカバラは元気