クッカバラは元気
だって、ひとりは寂しいから。
うんと自由だけど、ひとりの空間を埋める何かが必要。
だから自分のためのお気に入りの部屋が必要だし、こんな他愛もない文字のやりとりに溺れたりする。
大事に大事にクッカバラを育てる。
日光や水やりや植え替え、広瀬結に相談しながらサボテンを枯らしていたあたしは、今、いきいきした葉っぱを持つクッカバラと暮らしている。これって一歩前進、じゃない?
「とっても元気だね。良かった。安心してアフリカに行けるよ」
「心配なら、時々、クッカバラの写真を送るよ」
「見て、ぼくの部屋」
送られてきた写真を見て、どきんとした。
がらんと何もない広瀬結の部屋。ひとかけらの緑もない。あのこげ茶色のまったりしたソファもない。広い床。
「うわ。なーんにもないね!」
明るい口調になるように気を付けて文字をうったけど、胸がくちゃんとなって泣きそうだった。
「ソファは?」
「十万で売れた」
「十万?」
「もとは十六万」
ひえー、と思う。でも、他に家具がほとんどなかった広瀬結の部屋を思うと(ベッドも椅子も本棚もなかった)豪華一点主義もありだなと思わないでもない。
「ほんとうにからっぽ。でも、感謝」
「なんで?」
「気持ちの切り替えができたから」
まあ、広瀬結もいろいろあるんだろうな。知っているようであたしは広瀬結のことをほとんど知らない。
「いつ、行くの?」
「明日」
「明日?」
「クッカバラを枯らすなよ。抜き打ちチェックに行くぞ」
「家、知らないくせに」
軽いやり取り。でも本当は違う。
なんだろう。クッカバラの根っこが張るみたいに、いつの間にか広瀬結はあたしの中に根っこをおろしちゃったみたい。
「じゃあ、家の場所を教えてよ」
何かのついでみたいな軽い文章の中にどのくらいの分量の本気があるの?そんなふうに思っているのはあたしの方だけなんだろうな。広瀬結の方はきっと明日から始まるアフリカの日々でいっぱいなはずだもの。
広瀬結から送られてきた日本での最後の写真はあの、がらんとした部屋が最後になってしまった。
思わず声をあげてしまうほどの緑滴る温室みたいな、広瀬裕そのものみたいだった部屋は、もうない。
なんか、わかってしまった。
魔女が杖を振って素敵な部屋を出してくれたとしても、きっとその部屋はあたしにとって素敵な部屋じゃない。
あたしは、あたしの杖を探してがんばるしかないんだなあ。
自分の好み。
あたしって、何?
クッカバラは元気