隣は何をする人ぞ
「じゃ、かけましょうか」
サラリーマンがスマホを構え、えーと、あ、番号わからなくなっちゃった、と言うのを吉村が掲示板を照らし、兵頭が読み上げる。
「緊急連絡先。0120……」
読み上げる数字を打ち込んでいくサラリーマン。一心に見つめるぼくら四人。
暗闇に浮かぶ顔はみんな、真剣だ。
その顔を眺めているうちに別の考えが浮かぶ。
ぼくが考えすぎているだけじゃないのか?
みんな本当に本物のこのマンションの住人で一致団結すばらしいチームワークでこの「停電」からマンションを救ったヒーローじゃないのか?
そうだよな、普通に考えたらそっちの可能性の方が高い。泥棒なんて。ねえ、そんなに日常的に起こるものじゃないよ。少なくともぼくの身にそんなことが起こるなんて、はははは、ないない。
そう、そうだよ、ただの停電だ、きっと何も起こっていない、大丈夫。
「ええ、そうです。マンション名?グランフィールドモトマチ、そうです。元町三丁目。はい。いつから?えーと……」
「二十分前ぐらい」
「二十分ぐらい前です。ええ」
二十分。二十分もたったのか。さっき打ち消したばかりの考えがまた浮上。二十分もあれば十分、盗むことはできそうだ。そう思い始めると、懐中電灯であちこち照らしている吉村が妙にはしゃいでいるように見えて仕方がない。それは首尾よく仕事が完了したからじゃないのか? ぼくの家だけじゃない、他にも収穫はあったんだろう?
「ええ、全部だめです。自動ドアも、照明も。はい」
きっと防犯カメラも止まっている。証拠は残らない。うまく考えたな畜生。
どうにかして、証拠がつかめないだろうか。何か特徴、そうだ、顔を覚えよう。顔が証拠だ。あとは、体つきと特徴、なにか手掛かりになるものを、と兵頭と吉村をじっと見るも、吉村が気まぐれに振り回す懐中電灯のあかりしかない今は、じっくり顔を見ることも難しい。
「なにもかも、計算ずくか」
「ん?」
兵頭が顔をあげた。
「いや、ぼくたち、いつまでここにいればいいんでしょうね?」
そうだ、こうなったら一刻も早く、部屋に戻って確かめなくては!
「もう、連絡もしたし、家で待つしかないですよね」
「ですよね」
「管理会社は何て言っていました?」
「すぐ、調べます、って」
「調べます? 来る、じゃなくて?」
「そういうことはきちんとガツンと言わなきゃ。ああいう人たちってなかなか動かないんだから」
「あー冷凍庫のアイス、溶けちゃうな」
隣は何をする人ぞ