やっぱ赤だがね
「どれどれ」と、竜男も大根を小皿に取り口に運ぶ。
「うん、確かにまだちょっと若いな。赤ワインで言うところのボージョレヌーボーてな感じかな。二日目、三日目、になると味がもっと染み込んで、熟成されて旨くなるんだよ」
赤ワインの入ったグラスを片手に、誰も聞いちゃいないのに、竜男はもっともらしく一人語る。
「じゅうぶん煮込んだつもりだけど、まあ仕方ないわね。明日のお楽しみってことで」糸子が言う。
だいたいいつもそうだが、これで明日の食卓にも、今日残った味噌おでんが並ぶ事となった。
食事の終わりがけ、さすがに少々くどくなって来たとみえ、竜男は守口漬をつまみに煎茶を啜った。そして食後のデザートに、知り合いから頂いた、大須ういろうと、藤田屋大あんまきを、番茶で食した。
ある日のこと竜男は昼、モーニングを食べに行った。なんて言われても、日本全国津々浦々に住まう、大半の方々は何のことやら、さっぱり珍紛漢紛だと思われる。仕方ない。簡単に説明しよう。
ここらの喫茶店で朝、飲み物を注文すると、トーストとゆで卵などがもれなく付いてくる。それをモーニングサービス、略してモーニングと言う。だいたい昔は、そんなものだったが、次第にサービスがエスカレートして、おにぎり、味噌汁、サンドイッチ、ホットドッグ、スープ、サラダ、ケーキ、フルーツ、等、いろんなものが付いてくる店が次第に出始め、今となっては朝だけでは物足りず、一日中モーニングなる喫茶店も現れた。そんな一日中モーニングの店へ、竜男は昼を食べに行ったのだ。
〈一日中モーニングの店・カフェレストラン ハッピータイム〉と、看板に書いてある。その上で、黄色いパトライトが、クルリクルリと回っている。
一日中モーニングとは全く要領を得ない。何故にサービスの名称を変更しないのだ。朝から晩までモーニングだなんて、一月から十二月まで正月みたいなもんだ。ん、ちと、違うか?まあ、どうでも良いけどさ。と、一人胸中独語しながら竜男は、ハッピータイムの入口を入った。
「いらっしゃいませ」と、女性給仕が明るい声を出す。
店内は大変に賑わっている。竜男は、いらっしゃいませの声の主を捉まえ、尋ねた。アルバイトだろうか、若い女の子だ。
「えらい混んでるねえ。満席かな?一人なんだけど」
「奥の二人掛けの席が空いてますので、そちらへどうぞ」
竜男が奥に目をやると果たして空席を認めた。彼は彼女に「ありがとう」と礼を言って、奥の席へ向かった。
やっぱ赤だがね