テーマ:ご当地物語 / 愛知県西尾張地方

やっぱ赤だがね

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「つまらない。もう帰ろう」と松一は、そればかり言う。
「これでも日本三大七夕まつりの内の一つなのよ」ちょっと自慢げに、糸子が言う。
「えっ、三大七夕まつりは、仙台、平塚、安城、だろうが」竜男は此処の七夕まつりも、時に三大七夕まつりに含まれる、と知りながらわざと反論する。
「まあ、そうとも言うわね」糸子は澄ましたものである。
 四人がアーケードを南から北へ、人の波に流され歩いていると、唐突に竜男が誰に言うでもなく、独り言のように話す。
「熱いし、ばて気味だし、突然なんだけどスタミナづけに、ベトコンラーメンが食べたくなってきた」
ベトコンラーメンとは、此の地発祥のニンニクがごろごろ入ったラーメンのことである。因みに此処で言うベトコンとは、南ベトナム解放民族戦線のことではなく、ベストコンディションの略。
 ベトコンラーメンと耳にして、直ぐに糸子が反応を見せた。
「いいわねえ、久しぶりに新京行ってベトコン食べたいいわね。今やってるかしら?それにここから歩いて行けないこともないけど、ちょっと大変ね」
「そうだよな、ちょっと大変だよな。また今度車に乗って食べに行こう」と、ベトコンラーメンはあっさり、またのお楽しみとなった。
 アーケードを北に抜けると、眼前に神社が現れる。
「さてと、神社にお参りでもして、どっか店入ってメシ食って帰るか」
「そうね、そうしましょう」
「えっ、いやだ。もう帰ろう」
「わたしも帰りたい」
 子供達が帰ろう帰ろうとうるさいので、結局ここから駅に戻って帰ることにした。なるべく人混みを避け、祭りを避け、駅へ向かった。いったい何をしに来たんだろうと、竜男と糸子は思った。熱くて臭かったと、子供達は思った。
帰ってからうどん屋へ入った。三人が冷たいうどんを注文するなか、竜男は味噌煮込みうどんを頼んだ。彼は、熱熱の味噌煮込みうどんを、ふーふー言って食べた。
 夏が終わり、秋になり、随分と涼しくなった頃、四人は割と近所にある観音さまへ行った。まわりに植木屋が何軒もあり、植木が安く買える。商店もある。規模は小さいが、ちょっとした観光気分が味わえる。そこにある食堂へ四人は入った。
 店先で、おでんやら田楽やら、拵えている。店内に入ると、昭和の昔にタイムスリップした、感がある。沢山のメニューが紙に手書きされ、壁に貼られている。店の娘だと思われる若い女の店員が、高く元気な声を聞かす。少々時代がついたテーブルの上、茶が入ったポット、茶のみ、箸、ソース、醤油、胡椒、柚子胡椒、一味、七味、和辛子、山椒、などが置かれている。

やっぱ赤だがね

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