ペタンクルアーチ
共振?
そう。固有振動数をおなじにするなにかがあなたのなかにあると思うの。それはまた、やがて同期現象へと劇的に発展してゆくんじゃないかなって、わたしは夢のように想像しているの。
一本の木にホタルが集まって来て、バラバラに点滅していた光がやがておなじになり、ひとつの大きな光を放つようになるっていうそれだね。
さすがね。だからあなたは、人類の最初の光になるのよ。
壮大な話だね。
壮大な話なのよこれは。ねえ、助けたとき、クジラの目を見たでしょ?
うん。よく憶えている。かなしそうな目をしてた。
クジラもあなたの目を見たはずよ。そしてあなたの目を見て見抜いたはずよ。
なにをだろう。
あなたがこれからしてくれることを。
なにをするの?
意識改革よ。
意識改革。
すでに彼の意識をかえてるわ。
まさか。
そのうち、彼を見てればわかるわ。
わかった。ところで、あいつにこの話はしてないよね。
したけど。
したんだ。
だって、クジラの話でわたしね、さっきも言ったけどピンと来て、答えが見つかったと思ってほんとうれしくなって、なんだか勢いづいちゃって、その理論、彼に一気にまくしたてて話しちゃったのね。気づいたときはもう遅かったんだけれど。
そっかあ。
そうしたら、彼、そう言えば自分にも思い当たる節があるって。
マジで?
うん。
たとえばどんな?
それはまだ確信がないからって言わなかったけど。そこなのよ。彼、あえてそう言ってくれたんじゃないかなって。それからわたし、とんでもないこと言っちゃったって、ずっと気になってて。
あいつらしくもあるけど。気にするようなやつじゃないよ。そのへんさっぱりしてるところがあるしね。だってほら、彼女できたみたいだし。
だといいんだけど。あなたから遠く離れると、消えちゃうのかな。
どうなんだろうね。
それから彼女はしばらく黙り込んだ。さっきの言葉、どうなんだろね。ニュアンス的に彼女の話をぼくが疑っているように聞こえてしまったかもしれない。でもそんな気持ちはぼくには微塵もなかった。むしろうれしくて仕方がなかった。彼女がぼくのなかにあるとするものをこんなにもまっすぐに信じてくれているのだから。たとえそれが、誤解や錯覚だとしても。
ところで、最近、男のともだちふえてきてない?
ぼくに?
あなたに。
いいや。
そっか。
どうして?
あのね、クジラの歌あるじゃない。
うん。
最近の研究で、歌に誘われるのはメスだけではなくて、オスもだってわかってきているのね。
ペタンクルアーチ