テーマ:二次創作 / ラプンツェル

野地沙麗子のお部屋事情

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まったく、縁とは奇妙なものである。
結局、あのドアでの一件で彼女は髪を切らざる負えなくなってしまった。
だが件の髪がからまってしまった男性も、そして彼女自身も、ぶつかった衝撃なのか、はたまた運命なのか、お互いに一目惚れをしたようで、結果こうして二人は希望である私の事務所の隣のアパートに仲良く引っ越す事になったというわけとなったのだ。

そして彼女はこの件について怒っているどころか、むしろ心から感謝しているらしく、私に近くのヘアサロンの(なんと彼女はプロのモデル御用達のスタイリストだったのだ。)無料チケットを渡すとこう言ってくれた。

「今回あなたにはお世話になったわ。だからそのお礼をさせて。これは私の店の無料招待券なの。私、自分の店を持つ事も夢の一つだったのよ。」

そうして、彼女はきれいなウインクを一つしてみせた。

チケットによるとヘアサロンは明後日オープンと書いてある。
私はチケットを貰ったときに彼女にかけられた言葉を思い出した。

「…そういえば、あなたの髪は傷みやすくて枝毛が多いんでしょう。だから顔は可愛いのに、髪が伸ばせなくて困っているって顔ね。でも大丈夫。私、髪の扱いには自信がありますからね。近いうちにお店に来てね。あなたの髪にあったシャンプーとトリートメントを使えばきっときれいになるから…。」

その言葉を受けて、私は自分の髪をつまんでみた。
それは、くすんで赤みがかった枝毛だらけの傷んだ髪だった。
そして窓辺にいる彼女の髪に視線をうつす。
彼女の髪は短い、だがとても美しく輝くような金髪だ。
それは、しっかりと手入れされている証拠の髪の輝きだ。

「…私も、伸ばしてみようかな、髪。」

ぽつりとそんなつぶやきが口からもれた。
そうして、それは自分の自信へと繋がっていく。

…そうだ、そうしよう。
彼女のヘアサロンに行って、それから髪を伸ばそう。
そして、ある程度まで伸びたら私も両親にたのんで良い部屋に住んでみよう。
自分もベランダに出て人に見えるように髪をおろしてみるのだ。
彼女ほどは伸びないだろう。でも、やってみる価値はある。

そして、私はファイルされた不動産情報を見渡した。

なにしろ、素敵な部屋は売るほどにあるのだから…!

野地沙麗子のお部屋事情

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