テーマ:二次創作 / ラプンツェル

野地沙麗子のお部屋事情

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家業の不動産業をついで早や半年、最近私は憂鬱だった。
今日も今日とて机を前にし、書類仕事のあいまに短く切った髪をいじる。
私の髪は常に傷んでいて赤みがかった毛先は枝毛になってカールしてしまう。
それを見つめたあと、私の気分はますます憂鬱になる。

…まったく、どうしてこんなにも髪について悩まなければならないのか。
そうしてため息をついたとき、チリンとドアにつけたベルの音がした。

顔をあげてみれば、頭にネッカチーフを巻き、サングラスにリュックサックを背負った背の高い女性がドアの前で立たずんでいる。
そうして、彼女は私に笑顔を向けると鈴を転がすような声でこう言った。

「おはようございます。それで、私の希望に近い物件はみつかりまして?私が満足出来るような、そんな物件。」

そうして彼女はリュックサックを背負い直すと、私に再び微笑んで見せた。
私は、それを見てため息をつく。
野地沙麗子(のぢされいこ)。
それが最近私を悩ませる依頼主の名前であった。

一人暮らしの部屋探し。
駅の近くに住みたいという要望で、部屋の大きさも気にしないという。
おまけにお金に糸目はつけないときた。
…だが、問題はそこから先だった。
私はあらかじめリストアップしておいた今回紹介する物件のファイルを取り出すと、まるで戦場にいくような気分で立ち上がった…。

…車で走って十分のところ。
最初の物件は三階建てのアパートであった。
外観は洋館をモチーフとしていて、すぐそばの生け垣には薔薇が植わっている。
窓を開けたベランダの向こうから薔薇のほのかな香りがただよってくる三階の部屋のリビングで、私は彼女に聞いてみた。

「…で、どうでしょうか?野地沙さん。」
私は隣に立つ彼女におずおずと声をかけてみる。
彼女は室内でサングラスを外しており、その瞳は澄んだ湖水のように蒼かった。
すると彼女は少し考え込み、そして首を横にふる。

「麗子でいいわよ…でも、ちょっとこの部屋はどうかしら。」

そうして彼女はリュックサックを背中から外し、床に降ろした。その際、蓋の開いたリュックから美しい金髪の三つ編みがするりとこぼれ落ちる。
それは彼女の頭部に繋がった髪であり、長さはゆうに1メートルを超えていた。
そして、まだ残りの髪をリュックの中に入れたまま両手でその一部を抱えると整った顔にわずかな不快感をにじませながらこう言った。

「ここ、三階の一番上の部屋よね。ベランダから下まで何メートルあるの?」

私は素直に二階と床上分の高さを合わせた6メートル15センチと答える。

野地沙麗子のお部屋事情

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