テーマ:一人暮らし

6番レフト

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「サチ、まだこっちにいるのかな?」
 カスミ君はフライドポテトにたっぷりとケチャップをつけた。
「どうだろうね」
「今電話してみない?」
「いいけど」と言うしかなかったので、着信履歴から彼女の番号を簡単に見つけて電話をかけた。
「やあ、昨日は。今、大丈夫?」
「どうしたの? 酔ってるの?」
「今さ、カスミ君と店で飲んでるんだけど。カスミ君わかるよね? あの格好いい。それでサチの話になって、昨日たまたま久しぶりに会ったことを教えたんだ」
「ふーん」
「まだこっちにいるの?」

 カスミ君とサチが電話をしている間、僕は営業前にいつもやるトイレの掃除をした。少ししてトイレのドアを開けると、僕の携帯をテーブルの上に置き、フライドポテトをスマートに食べているカスミ君が見えた。
「少しだけどコメのことも話せたよ」
「よかったね。サチの感じはどうだった?」
「よかったよ」
 カスミ君はそう言ってボトルを傾けた。しかし中にはもうビールがなく、彼は目を見開いてそれを確認した。
「何か別の飲む?」
「そうだね」
「色々あるね」
「出るものは限られてるけどね」
「全部作れるのか?」
「あまりにも出てないものだと作り方を忘れちゃってる」
 高橋さんを呼ぼうと体を捻るとそこに女性が立っていた。スラッとしていて髪の毛が長く茶髪で全身から甘い香りがした。しかし派手な雰囲気とは対照的に服装はシンプルで、顔立ちもよく見るとさっぱりとしていた。
「カスミ?」
「よお。アカリ」
 僕は空いていた隣のテーブルの席に移り、高橋さんに大丈夫だからと右手を挙げた。
「さっきまで友達とこの店で飲んでて、それでカスミが店に入ってきて――」
 彼女が少し恥ずかしそうに話している途中で、このバー彼がやってるんだよとカスミ君は僕のことを見て言った。
「バーじゃない、ダイニングバー。この店を検索してみて下さい。ダイニングバーになってますから」

 カスミ君と橘小明は大学の時に知り合って、今も年に何度か顔を合わせている仲だという。彼らは高校を卒業後、東京の大学に進学し、同郷の人たちで集う飲み会のようなもので顔を知るのようになった。同世代の結構大勢の人たちが参加していたが、友人の友人くらいの関係で上手くまとまっていた。もちろんカスミ君がその集いの中心にいて、それにつられるように多くの人たちが集まってきたのだろうと想像できる。その中で知り合い、付き合い出して結婚までいった者もいる。法政大学に進学したサチもよくその集まりに行って楽しくお酒を飲んでいたらしい。

6番レフト

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