6番レフト
店に入るとカスミ君が遊園地のような笑顔で僕のことを迎えてくれた。僕は真っ直ぐ彼の座っているテーブルまでいってウエイターの高橋さんを呼んだ。カスミ君は相変わらず爽やかだった。肌に張りがあって髪も清潔に整えてあり、少しかわいらしい感じの洋服を嫌みなく着こなしている。中性的な顔。肩周りにはしっかりと筋肉がつき、きっと今も鍛えているのだろうと思った。僕は高橋さんに野菜スティックとフライドポテトをお願いして、カスミ君と乾杯した。
「うまい」
カスミ君は目を大きくしてそう言って僕の方を見た。CMを見ているみたいだと思った。彼とは中学の時に一緒に野球部に所属していた。中学の三年間、高校になってからは何度か顔を合わせる程度になり、それ以降は疎遠になっていた。彼は二年生の時からチームの中心選手で群を抜いて上手かった。投手と内野手を兼任して4番を打ち、キャプテンをしていた。野球をプレーしている時の彼はもちろん爽やかで時折力強くもあり、男の僕の目から見ても特別に格好良かった。みんな彼のことを見ていたと思う。僕は新チームになってからは不動の6番レフトに。チーム内の立場もあまりぱっとしないものだった。当時の学校生活も大体同じようなことが言えたと思うけど、別にカスミ君に嫉妬だとかそういうものはしていなかった。もちろん彼はかなりモテていたけど、普段はぼんやりとしていて気軽なところもあった。
「コメのこと覚えてたんだね?」とカスミ君は僕に訊いた。
僕はうんと肯き、高橋さんに向かってビール・2・おかわりとサインを送った。
「ずいぶんコメとは連絡を取ってなかったんだ。大学の時は帰省する度に連絡して会ってたんだけど、段々・・・」
「カスミ君モテるから」
「コメが死んだこと最近知ったのか?」
「サチから教えてもらった」
「会ってるんだ?」
「たまたま会ったんだよ。仕事に行く途中。サチは駅から実家に行くとこだったみたい」
「かわいかったか?」
「うん、まあまあかわいかった」
「俺さ、サチのことを好きだったんだ」
「カスミ君が?」
「タクミと付き合ったこと知ってショックだったよ」
「もっとかわいい子いたと思うんだけど」
「いないよ。サチが一番だった」
僕はサチが学生の頃の姿を思い出そうとしたが、残念ながら彼女の裸しか頭に浮かんでこなかった。
「サチのこと考えて自慰行為だってしてた」
「僕もしてたけどさ」
「変かな?」
僕はニンジンスティックを囓りながら、カスミ君とサチが一緒にいるところを想像してみた。
6番レフト