テーマ:一人暮らし

6番レフト

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 バラエティ番組を見ていた彼女が突然僕の方を向く。月の裏側でも見るような目で僕のことを見つめ、コメが死んだのと言った。
「コメ?」
「うん」
「お米?」
「高校の時の友達」
「どうして死んだの?」
「わからない。でも死んだって」
 彼女はそう言うとテレビの画面に顔を戻した。何人かのテレビタレントが楽しそうに話をしている。最低だとか、それは無理だろとか、嘘嘘とか言って。いや本当だからと僕は言ってみた。
「それじゃ、やってみろよ」
 あるテレビタレントが誰かを指差しそう言うと、何人かのテレビタレントが揃って立ち上がり、そうだそうだと声を張り上げた。

 彼女は二週に一度、僕の部屋を訪れて実家に寄り、現在生活している仙台へと戻る。もう二年ほどそんな暮らしをしている。彼女は23歳の時に大学時代から付き合っていた今の旦那と結婚をした。一つ年が上でサークルで知り合ったと聞いている。彼の名前は忘れてしまったけれど、なかなか印象深い顔をしていて、目と眉がヒーロー戦隊のように決まっていた。
「少し前のことなんだけどね、彼会社でミスしちゃって上司に結構叱られたみたいなの。その上司っていうのが女の人なんだけど、その人に出会す度に頭を下げてたんだって。ごめんなさい、すみませんでした、申し訳ありませんって、何日も。そしたらね、その女上司から話があるからって食事に誘われて居酒屋の個室で二人でお酒を飲んだみたいなんだけど、その女上司酔っ払って彼に頭を下げきたらしいの。ごめんなさい、すみませんでした、申し訳ありませんって。どうしたんですか? って彼何度も尋ねたんだけど、彼女が変わらず、ごめんなさい、すみませんでした、申し訳ありませんって繰り返し言ってくるもんだから、彼女の肩に手をやって、もういいですから僕に任せて下さいって言ってみたんだって。そしたら彼女、ズボンの上から彼のアレに触れてきたの。落ち着いて下さい山沢さん、僕結婚してるんですって言ったら、私だって結婚してる、絶対離婚しないからって言って、こうやって彼の腕を触りながらね、いつも君のこと見てイライラしてたんだから、毎日バカみたいに私に謝ってくるからまともに仕事ができないのよ、どうしていつもごめんなさい、すみませんでした、申し訳ありませんって言うの? バカにしてるの? お願いだからもうそんなこと言わないで、いつも仕事どころじゃないのよ」

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