シャワーカーテン
床に積んでいた、ざぶとんのようになったシャワーカーテンを父に渡した。帰り際、父がこういった。
その、後輩の子をここに連れてきたりしてもいいんだよ。父さんは、そういうの、気にしないから。おまえの好きにしたらいいから。
ねむるときに耳を澄ませると、父の息づかいが聞こえる気がした。
お父さん、そういう人じゃなかった、と後輩にいった。じゃあ、部屋いっていいんだ、ていうかたまにはそっちがきてよ、と後輩がいう。返事を濁した。
はじめてひとりで出張にいくことになった。それまでは先輩といっしょだった。けれど今回はひとりだった。先方と打ち合わせをした。大丈夫だろうかと思いながらも、たいした問題や議論はなにも起きなかった。電話やメールのやりとりで空いていた隙間を埋めただけだった。簡単だった。その分、少しこわい。そのあと軽い飲み会をした。金曜日だったけど早目に解散した。ホテルに帰った。小さい部屋だった。トイレとバスはセパレートタイプだった。シャワーカーテンがない。壁を触った。当然シャワーカーテンではない。うれしいというわけではなかった。さびしいというわけでもない。ただのシャワーカーテンだ。それでも、スーツケースの底にたたまれたシャワーカーテンを見つけて笑った。父がいれてくれていたのだろうか。それとも後輩だろうか。
出張から帰ってきて、荷物を置くとまず父の部屋にいこうとした。鍵がかかっていた。呼び鈴を押した。いないみたいだった。それから、そのまま進行方向の端までいって、後輩の部屋の呼び鈴を押した。出なかった。
自分の部屋に帰ると、まぶしかった。ベランダにシャワーカーテンが干されていなかった。父が取り込んでくれたのかもしれない。いつ、合い鍵を渡したんだろうか。代わりに、スーツケースのなかでくしゃくしゃになったシャワーカーテンを干した。それから新しく配信されていた、海外ドラマのつづきを見た。
廊下の方から笑い声が聞こえた。それから、父の部屋のドアが閉まる音がした。だれかと出かけていたんだ。もう、だれかと仲良くなったのだろうか。父が新しく友だちをつくるところを想像できなかった。わざわざ、家の前で別れるような友だちを。それからしばらくして、父が部屋にやってきたとき、ねむったふりをしていた。
点け放しの電気を消して父が部屋から出ていって、自分の部屋にもどった音を確認したあとに起きた。ドアを閉める音も、足音もなるべく立てないように後輩の部屋にいった。後輩は帰ってきていた。おかえり、と後輩がいった。出かけてたんだ、と聞くと、後輩がにやにやした。いつの間に仲良くなったの? と聞いた。ないしょ、と後輩がいった。
シャワーカーテン