テーマ:一人暮らし

シャワーカーテン

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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次の日は夕方に起きてレンタルビデオ屋さんにいった。まだ配信されていない、海外ドラマのつづきを借りようかと思ったけどやめた。映画を借りようかと思って何回もうろうろした。借りなかった。なんにしても、きれいごとだと思ってしまいそうな気分だった。飽きてしまっていたソーシャルゲームを一時間くらいやってみたり、SNSを執拗に見たりした。頭が痛くなった。スマホに酔ってしまったみたいになった。ねむった。起きた。仕事にいった。帰った。寝た。
おおむね、きのうを焼き直したような日がつづく、そう思える。

 仕事から帰ってくると、部屋の鍵が開いていた。おかえり、といわれた。ただいま。父親がきていた。料理のにおいがこもっていた。換気扇、といった。ああ、もうすぐ出来るから、待ってて。テレビを見たり、ネットをしたりするのも、なぜか見られるのが恥ずかしくてシャワーを浴びた。あがるとテーブルに中華料理が並んでいた。見ないうちに、父は料理ができるようになっていた。シャワーカーテン買いかえといたから、あと、掃除もしておいた、と父がいった。ユニットバスも料理のにおいがしていて、気づかなかった。この前にかえたばかりだというと、いつのことだと聞かれた。正確には覚えていなかった。一週間前だとサバを読んだ。そのあと、二週間前だったかも、といった。きょうは、どうしたの? おまえ、元気なかっただろ、という父は自分は元気だとうそぶいているようだった。
父も実家でひとり暮らしをしていた。これくらいの方が落ち着くな、と父が部屋を眺めるように見ていった。実家は大きすぎてさびしいといった。ひさしぶりに会う父親は角が取れていた。正直になっていた。弱くなったみたいで、まっすぐ見れなかった。次の日の朝、帰っていく父の背中に向かって、じゃあ越してくれば、といった。父はなにも答えなかった。聞こえていなかったのかもしれない。
ベッドに座りながらLINEを開いた。〈ほんとうに、ここに越してきてもいいんだよ。隣、空いてるし〉と打って、送るのをやめた。
仕事にいく途中でコンビニに寄った。レジのうしろにたばこがたくさん並んでいた。どれがなんなのかわからなかった。1番といいかけて、2番といった。青い箱のたばこだった。駐車場の喫煙所で吸おうとした。どっちの端をくわえればいいのか、一瞬迷った。ライターがないことに気がついて、またコンビニに入ろうとすると、出勤中の後輩がやってきた。ライターを借りた。火を点けた。吸った。咳き込んだ。後輩が笑った。貸して、と後輩が吸いさしのたばこを奪って、深く吸いこみ、それからこちらに渡した。また咳き込んで、後輩が笑った。なれなれしかった。ばれたらどうすんの? といった。

シャワーカーテン

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