テーマ:一人暮らし

シャワーカーテン

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仕事にいった。帰った。寝る。仕事にいった。帰った。寝る。仕事にいった。帰った。寝る。仕事にいった。帰った。寝る。仕事にいった。帰った。寝る。きょうは休みだ。
 ねむって、ねむって、ねむって、起きたらもう昼過ぎだった。せっかくの休みなのだからなにかしようと思っても、せっかくの休みなのだからもっと寝ようと思って夕方まで二度寝した。起きて、テレビを点けた。ザッピングして、それから、録画していた番組を見ようと思った。深夜に放送されていた映画を。消えていた。知らないうちに容量がいっぱいになっていて、古いものが消えていた。そんなに前だったんだ。そんなに時間が経ってたんだ。テレビを消した。もう一度ねむろうと仰向けになって、やめた。西日がさしこんできていて、アパートの外の小さい公園からあそび声が聞こえてくる。深呼吸した。
 ベッドに横たわる手のひらに、いったいなんなのかわからないざらざらした小さいものがたくさん触れた。毛玉、ではなくて、砂? よくわからない。でもそれがゴミなのはたしかで、床にある掃除のコロコロを手に取るあいだに、抜け毛やほこりがたくさん見えた。掃除しようかな。した方がいいな。一度はじめてしまえば楽なのだと面倒くささを殺した。音楽をかけて、ぜんぜんつらくない、楽しいみたいに、ミュージックビデオみたいにリビングを掃除した。キッチンを、シンクを、コンロのべたつきを。ユニットバスの壁に、小バエがとまっていた。トイレにシャワーの水圧をあてた。体にかかった。シャワーカーテンを見た。シャワーカーテンを。無理してもバスとトイレがセパレートの部屋にすればよかった。賃貸の契約をしたときには、どうせもうすぐ働くんだからってお金を使っていて、家にまでまわせなかったし、簡単にまた引っ越したりできるように、部屋は小さい方がいいかなって。この部屋に住んでもう一年にもなる。一年も仕事をつづけてる。そんなにつづくとは思わなかった。後輩が入ってきて、一番下ではいられなくなっていた。自動的に。シャワーカーテンがよごれている。べたーっと触った手のひらを引き延ばしたみたいに、黒い、なんだろう、カビや水垢だらけになっている。病気みたいな斑点がある。シャワーカーテンをずっと見ないようにしてた、でもきょうはまるで展示物を見るようにじっと見てしまっている。新しいのに変えないといけない。
たしか何か月か前に掃除したときも同じことを思って、買っておいたはずだ。新しいシャワーカーテンを。どこにしまったのだろう。クローゼットの奥とかに、もしかしたら入れたのかもしれない。それか、キッチンの下の棚の、奥とか。でも、見つからなかったら。探してるうちに、なにもかもが嫌になってしまいそう。なんでこんなことしてるのだろうと、濡れたジーパンが気持ち悪くて。探さずに、買いにいった方がいい。

シャワーカーテン

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