退去の時にかかる原状回復費の相場はいくら?

原状回復

2020年2月28日更新

筆者:竹内 英二 不動産鑑定士・賃貸不動産経営管理士

竹内 英二

不動産鑑定士・賃貸不動産経営管理士

退去の時にかかる原状回復費の相場はいくら?

賃貸物件の契約において、借主には借りていた物件を退去する際に、借りた時と同じ状態で明け渡すという「原状回復義務」があります。そして、退去時のトラブルで最も多いのは、この原状回復によるものです。原状回復については貸主と借主の双方に誤解があることが多いため、意味や原状回復義務の内容をしっかり把握することが必要となります。

記事の目次

  1. まずは原状回復の負担責任について確認
  2. 補修にかかる費用の相場は?
  3. 負担を減らすために!入居中に注意すること
  4. まとめ

まずは原状回復の負担責任について確認

原状回復について理解するにはまず、「負担すべき費用」と「負担する必要のない費用」の責任の所在をしっかり理解することが重要です。

原状回復はトラブルが多いことから、国土交通省では「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下、「ガイドライン」と略します)を策定しています。
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf

ガイドラインでは、原状回復は以下のように定義されています。

【原状回復の定義】

原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

原状回復では、まず通常の住まい方、使い方をしている上で発生する経年変化や通常損耗については、原状回復を行う必要がありません。普通に住んで一般的な掃除をしている限り、壁紙や床材の張り替え、ボードの取り替え、クリーニング等を借主が行うことは不要です。

一方、原状回復で借主が対応しなければならないものは、「故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損の復旧」です。基本的には、わざと、またはうっかり壊してしまったもの等が原状回復の対象となります。
例えば、日照によるフローリングの色落ちや、貸主が雨漏りを修繕してくれなかったことによる床の腐食等は、原状回復の対象ではありません。経年変化や通常損耗で生じた劣化に対する修繕は貸主が賃料でカバーできるものと解釈されており、借主に原状回復義務は生じないのです。

一方、賃貸借契約書において、原状回復で借主にクリーニング等の「特別の負担」を課す特約がある場合、その特約は有効ですが、ガイドラインでは、賃貸借契約において以下の要件を満たさない限り、借主に特別の負担を課すことはできないとしています。

  1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

クリーニング等については、賃貸借契約に「特別の負担」を課す特約がなければ原状回復の必要はありません。また、特約があったとしても上記の3つの要件を満たしていなければ、クリーニング等の原状回復を行う必要がないことになります。

一般的には、住宅の原状回復義務でガイドラインを超える義務を課すことは少ないため、借主にクリーニング等の義務が生じることは稀です。
ただし、タバコを吸う方は注意が必要です。タバコのヤニや臭い、クロス等の変色は「その他通常の使用を超えるような使用」の対象になります。そのため、タバコによってクロスが黄ばんだり、臭いがついたりした場合には、原状回復義務を負うことになります。

原状回復については、過去に多くの裁判で争われており、ガイドラインはそれらの判例を基に作られています。つまり、ガイドラインを遵守することが裁判所の判断に沿うということになります。

原状回復については、「賃貸物件の原状回復にルールや定義はある?どこまでが自分の責任になるの?」も併せてご覧ください。

補修にかかる費用の相場は?

ここでは、「その他通常の使用を超えるような使用」をしたことで原状回復義務がある方を対象に、原状回復の費用について解説します。

担当する会社・業者によって費用が変わることに注意

原状回復に関しては、貸主によって工事や修復を担当する会社が指定されているのが一般的です。
通常の賃貸借契約書には、原状回復の方法について以下のような定めがあります。

原状回復の方法は、特段の定めがない限り、甲(貸主)が工事の手配等を行うものとし、乙(借主)は、自らの負担部分に係る費用を甲に対し支払うものとする。

つまり、原状回復を行う会社は貸主が指定し、借主の側で選べないという場合があります。
そもそも原状回復義務は、借主が故意過失等で損傷した場合に生じたものです。借主が壊したものの回復を借主が勝手に行ってしまうと、トラブルにつながりかねません。原状回復を担当する会社や業者が指定されている場合は、その指定に従うようにしましょう。

物件の広さ・間取り別費用相場

間取り別のハウスクリーニング費用の相場を示すと、以下のようになります。

間取りタイプ ハウスクリーニング費用
ワンルーム、1K 15,000~30,000円
1DK、1LDK 20,000~40,000円
2DK、2LDK 30,000~50,000円
3DK、3LDK 50,000~80,000円
4DK、4LDK 70,000円~

上記のように、部屋が広くなればなるほど、ハウスクリーニングの費用は上昇します。

ただし、費用は担当する会社や業者、汚れの度合いによって異なります。

壁や天井の壁紙の張り替え

壁や天井の壁紙の張り替えの相場は30,000~40,000円程度です。
壁紙はグレードによって値段が変わりますが、おおむね1m2あたり1,000円~1,500円が相場です。張り替えの際は全面を交換することになりますので、壁の面積によっても値段は変動します。またタバコのヤニで天井が黄ばんだような場合には、天井分も加算されることになります。

壁や天井のボードの取り替え

壁や天井のボードの取り替えの相場は30,000~60,000円程度です。
壁紙だけではなくその中のボードまで破損してしまった場合は、その取り替え工事も必要となります。破損の大きさによって値段は変動します。壁紙も同時に張り替えることになりますので、その両方に費用が必要となります。

床材の汚れのクリーニング

床材の汚れのクリーニングの相場は15,000~25,000円程度です。
洗剤や薬品等を使って落とせる範囲の汚れであれば、大規模な修繕を行わず比較的安価にクリーニングが可能です。こちらも汚れの数や範囲によって値段が変動します。

床材の張り替え

床材の張り替えの相場は8,000~10,000円程度です。
家具や家電の搬入時などに床に傷やへこみをつけてしまった場合には、その箇所の床材を張り替える必要があります。傷の大きさはもちろん、フローリング、ビニールクロス、畳など床面の素材によっても値段は変わります。

水垢やカビのクリーニング

水垢やカビのクリーニングの相場は5,000~20,000円程度です。
こちらも汚れの程度や範囲によって値段が変わります。特に窓枠のパッキンはカビが付着しやすく、交換によって値段に影響が出やすい箇所です。日頃から湿気対策を施すなど、注意しておきましょう。

キッチンの汚れのクリーニング

キッチンの汚れのクリーニングの相場は15,000~25,000円程度です。
レンジ周りや換気扇に付着した焦げや油は簡単に落とせるものではありません。その程度によって値段が変わってきます。日頃から小まめに汚れを落とすなどしておきましょう。またレンジ周辺の壁に汚れ防止のシートを貼って置くのも効果的です。

なお、張り替えや取り替えの費用に関しては、必ずしも全額を借主が負担する必要はありません。
例えば、賃貸借期間が1年間で毀損させた場合と、賃貸借期間が10年間で毀損させた場合を比較すると、後者の方が経年変化や通常損耗の影響が大きいと考えられます。
もし長期間物件を借りている場合は、原状回復の範囲について「どのくらいの期間住んでいたのか」も加味してもらえるよう、話してみるとよいかもしれません。

負担を減らすために!入居中に注意すること

負担を減らすために借主が注意できることは、「用法違反をせず、一般的な掃除をすること」です。
決められた使い方を守り、掃除も行っており、故意・過失等で破損をしない限り、原状回復の必要はありません。

下記に挙げるようなポイントをチェックし、入居中から物件をきれいに使うように心がけていきましょう。

ペットの飼育環境やペットがつけてしまう汚れ

ペット飼育禁止であるにも関わらずペットを飼っていた場合は用法違反となり、原状回復の対象となります。
ペットを飼っても良い物件の場合は、原状回復の内容として「消臭クロス」や「滑りにくいフローリング材」等の材質が指定されていることもあります。材質や原状回復の範囲を良く確認し、貸主と協議した上で原状回復を実施しましょう。

掃除せず放置したことでつく汚れ

一般的な掃除をしている限り、原状回復の対象とはなりません。
ただし、例えば結露を放置したことにより拡大したカビやシミ等は、原状回復義務があります。本来、結露の修繕は貸主負担ですが、その結露の発生を貸主に通知せず放置していた場合、借主の善管注意義務違反があります。

設備のメンテナンス不足でつく汚れ

エアコンや給湯器などに対し、本来行うべき設備のメンテナンスを怠った場合に発生した汚れは、借主の責任になります。
一方、設備の不良は貸主に修繕義務があるため、汚れ等がつく前に貸主へ通知しましょう。もしも設備不良が起きているのに貸主へ知らせずに使用していた場合は、「善管注意義務違反」となり、原状回復の対象となってしまいます。

釘などを使ったDIYや自分で戻せない塗装

エアコンやテレビは一般的な生活のために必要なものであり、それらの設置のために開けた壁のビス穴等も原状回復の対象には含まれないものとされています。
画鋲の穴も原状回復の対象ではありません。

一方で、重量物を支えるためにあけた釘穴やDIY等によるネジ穴などは、借主に原状回復義務が課されます。そうした穴を開ける場合は貸主の了解を取り、原状回復の方法を決め、その方法に従って原状回復を行うようにしましょう。

壁に画びょうを刺すことについては、「賃貸では壁に画びょうを刺してはダメ?壁に穴をあけずに飾る方法とは」「賃貸物件の壁紙を張り替えるのはNG?壁の模様替え方法とアイデア」も併せてご覧ください。

まとめ

ここまで、原状回復の費用について解説してきました。

原状回復は、ガイドラインに基づき実施するのが前提です。傷や汚れのすべてにおいて負担するような必要はありません。しかし、万が一、借主の用法違反や故意・過失、通常使用を超える使用等により損耗・毀損させてしまった場合には原状回復の責任が発生します。ポイントを押さえ、しっかりと行ってから気持ちよく退去できるようにしましょう。