不動産は相続せずに売却できない!売却するための手順を詳しく解説

本記事では、不動産を相続せずに売却した際のリスクや売却方法と売却するための手順も解説。記事を読むことで、相続する不動産をどのように売却するべきかわかるようになるでしょう。
記事の目次
不動産は相続せずに売却できない

相続が発生した不動産は、相続登記することなく売却できません。なぜなら、不動産の売却時には、相続人が所有者であることを証明しなければならず、その際に登記が重要になるからです。2021年に不動産登記法が改正され、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されました。相続登記をおこなわなかった場合、ペナルティが科されます。ここからは、不動産を相続せずに売却できない根拠である登記を中心に理由を詳しく解説します。
不動産の売却における登記の重要性
親や配偶者などから遺された不動産を第三者へ売却するには、買主に対して自身が物件の正式な所有者であると示さなくてはなりません。そこで、相続した物件を所有しているという公的な証明になる「相続登記」が必要になります。
相続登記をせず被相続人名義のままでは、法務局で所有権移転登記をおこなえません。被相続人名義のままでは、買主に所有権を移せないことから、売却できません。
不動産を売却するには相続登記をおこない、物件の登記を被相続人から相続人へ変更してから、売却先を探すことが基本です。
2024年に相続登記が義務化された
「不動産登記法」改正により、2024年4月1日から相続登記は義務化されました。相続人は、不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければなりません。
背景にあるのは、所有者不明の土地・建物の増加です。名義がはっきりしない土地・建物が増え続けており、公共事業や防災対策が進まず社会問題に。登記の義務化により相続人が早期に名義を確定させることで、所有者不明の不動産の発生を防ぐことが狙いです。
正当な理由なく、名義変更をせず被相続人の名義のまま放置すると10万円以下の過料が科されます。相続登記は義務化されているため、不動産を相続した場合は、あと回しにせずに登記をおこなうようにしましょう。
不動産を相続せずに売却するリスク

不動産を売却する時、被相続人から自分へ名義変更をする相続登記をおこなわずに売却を進めると、売買契約を解除されるリスクがあります。
不動産の登記名義が被相続人のままの場合、登記上の所有者と売却契約を結ぶ売主が一致しません。登記上の名義人が売主でない場合は、所有権移転登記がおこなえないため、売却ができない状態になります。
よって、売買契約自体が無効と判断され、取引が取り消されます。相続登記を怠ったことで売買契約が無効になれば、買主に対して売買代金を返還する必要があります。
また、売買代金の返還以外にも、売主の過失によって契約を履行できなければ、買主から損害賠償請求を受けることも。契約内容によっては違約金を請求される可能性もあるため、相続せずに売却をするとペナルティがあるケースもあるでしょう。
相続登記をしないまま売却手続きを進めれば、買主・不動産会社・金融機関など、不動産売却に関わる取引先の信頼を失いかねません。そのためそれらのリスクを考慮して、不動産は必ず相続してから売却する必要があります。
不動産を売却する場合に知りたい相続方法

相続する不動産の売却時には、換価分割をおこなうケースと清算型遺贈がおこなわれるケースがあります。それぞれどのような方法なのか紹介します。
換価分割
換価分割は、相続財産である不動産を現金化し、得た代金を相続人の法定相続分や協議で定めた割合に応じて分け合う方法です。不動産の共有状態を避けられるため、相続人同士の長期的なトラブルを防ぐことが期待できます。
不動産の相続登記を済ませてから売却手続きに入ることで、換価分割は可能です。相続人が複数いることに対して不安がある場合は、換価分割による遺産分割を検討しましょう。
清算型遺贈
清算型遺贈は、遺言書に基づき遺言執行者が物件を売却し、売却代金を遺言で指定された受取人に分配する手続きです。遺言執行者がいれば売却と分配を一任可能であり、相続人以外の第三者にも公平に資産を届けられます。
遺言書がある場合は、遺産分割協議をおこなう必要はありません。清算型遺贈では遺言書のとおりに不動産が売却されて、受取人に売却代金が相続されます。
相続した不動産を売却するための手順

相続した不動産を売却するための手順は以下のとおりです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
- STEP 1遺言書の有無を確認し遺産分割協議を実施する
- STEP 2司法書士に依頼して相続登記をおこなう
- STEP 3不動産会社に相談して売却する
STEP 1:遺言書の有無を確認し遺産分割協議を実施する
まずは被相続人が遺した遺言書の有無を確認します。「公正証書遺言」なら即日効力が認められますが、「自筆証書遺言」は家庭裁判所の検認を経て、初めて登記や売却に使えます。遺言がない場合は、法定相続人全員で遺産分割協議をおこない、合意内容を遺産分割協議書にまとめましょう。
協議書には不動産の分割方法や分割割合など、財産の相続方法を詳細に記載します。各相続人が実印で署名押印し、印鑑証明書を添付して完成です。売却や登記の基礎資料となるため、記載漏れや形式不備がないよう慎重に作成しましょう。
STEP 2:司法書士に依頼して相続登記をおこなう
分割方法が確定したら、司法書士へ相続登記の申請を依頼します。用意する書類は遺産分割協議書のほか、被相続人の除籍謄本・相続人全員の戸籍謄本、固定資産評価証明書などです。
司法書士が書類を精査し、法務局に所有権移転登記を申請して名義を相続人へ変更します。登記は自身でおこなうこともできますが、専門家に依頼すれば記載ミスや添付漏れを防げるため、再提出になることもありません。依頼料である司法書士報酬が発生しますが、できる限り早く相続登記をするなら、専門家への依頼が確実です。
STEP 3:不動産会社に相談して売却する
登記が完了すれば、不動産会社に査定を依頼して、本格的な売却活動が開始できるようになります。複数の会社に相談して相場を把握し、それぞれの会社を比較したうえで信頼できる1社を選びましょう。不動産会社と媒介契約を結び、購入希望者が見つかったら売買契約を締結します。
買主から売買代金を受け取ったあとは、所有権移転登記をおこない買主名義に変更します。不動産会社の利用料である仲介手数料は、税金を申告する際に経費として計上できるため、受け取った領収書は保管しましょう。
相続した不動産を売却する際のポイント

相続した不動産を売却する際のポイントを5つまとめました。事前に確認してスムーズに売却が進められるよう準備をしましょう。
相続登記はできる限り早くおこなう
相続した不動産の名義は、できる限り早く変更するようにしましょう。2024年4月からは相続登記が義務化されているため申請は必須です。売却を含め、相続に関して具体的な行動を取るためにも、相続登記をしなければなりません。専門家である司法書士への相談を含めて、相続登記に関する手続きはすぐに対応するようにしましょう。
共有名義・共有持分の取り扱いに注意する
相続人が複数いて、不動産を所有する場合は、共有名義となります。共有名義の不動産は共有者全員の同意がなければ売却できません。しかし、個人の持分である共有持分は売却可能になっています。
共有持分を共有者以外の第三者に売却した場合は、売却価格が大幅に下がることが多いです。ほかの共有者に説明せずに売却した場合は、トラブルが発生することも。
共有名義の不動産は取り扱いが難しいです。将来のトラブルを最小限に抑えるなら、不動産を売却して換価分割の相続を検討したほうがいいでしょう。
登記完了前でも不動産会社に売却を相談できる
相続登記が終わっていなくても、不動産会社に売却を相談することは可能です。早めに不動産会社に査定を依頼し、市場価格を把握すれば、登記完了後、すぐに売却手続きを開始できるでしょう。相続登記が必要になるタイミングは、所有権移転登記が必要な売買契約を結ぶ段階であるため、それ以前の売却に関する準備は先におこなっても問題ありません。
隣地との境界や建物の設備状態を把握する
売却する不動産の境界杭や境界標が失われていると、買主は越境リスクを懸念し、購入をためらうことがあります。隣地所有者と立ち会って境界を確定し、必要であれば土地家屋調査士に依頼して測量図を作成しましょう。
また、建物の設備状況の劣化を確認し、必要に応じて修繕をおこないましょう。取引後に告知していない欠陥が見つかれば、契約不適合責任を問われ、高額な補修費や損害賠償が発生する危険性があります。
不動産の売却は買主が見つからなければ、現金化できません。コストをかけてでも買主に安心して購入してもらうことが早期成約につながります。
相続・売却のタイミングで税金を納める必要がある
相続した不動産の売却では、相続時には相続税、売却時には譲渡所得税と住民税がそれぞれ課税されます。相続税は相続開始から10カ月以内に申告して税金を納める必要があります。不動産の売却益は、売却した翌年の確定申告で譲渡所得を申告して、申告期間内に所得税、6月以降に住民税を納めるようにしましょう。
また、相続・売却にかかる税金に対して控除制度を使える可能性があり、節税も可能です。使える控除制度をうまく利用して、適切に税金を納めるなら、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
相続登記せずに不動産の売却をおこなうことはできません。相続した不動産を第三者に売却するには、まず相続登記を完了させましょう。相続を知った日から3年以内に登記を申請しないと過料の対象となるため、手続きをあと回しにできません。
相続した不動産をスムーズに売却するためには、早めに司法書士などの専門家に依頼して、不動産会社に売却を相談することが重要です。適切なタイミングで相続登記と売却活動を進めることが、将来のトラブルを回避し、コストを最小限に抑えることにつながります。
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執筆者
長谷川 賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ