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共有名義の不動産を売却する方法は?売却できないトラブル事例も紹介

共有名義の不動産の売却にはさまざまな条件があります
所有している不動産が共有名義であった場合、どのように売却するべきか悩む方もいるでしょう。基本的に売却には共有者全員の同意が必要になりますが、自身の共有持分のみであれば売却が可能になることも。ただし、共有名義の不動産の売却ではトラブルも起こりやすいため、事例を一通り把握してから売却を検討したいところです。

本記事では、共有名義の不動産の売却に関する基礎知識を解説したうえで、売却する方法をご紹介します。また、発生しがちなトラブル事例や、実際にかかる費用・税金も解説。記事を読むことで、共有名義の不動産の売却を具体的に理解できるようになるでしょう。

不動産の共有名義とは

不動産の共有名義に関する基礎知識を解説します
不動産の共有名義に関する基礎知識を解説します

共有名義は、一つの不動産を複数人で所有し、それぞれの権利を登記に反映させた状態を指します。複数人で資金を出し合うことで、単独名義で不動産を購入するよりも資金調達がしやすく、高額物件を購入できるメリットもあります。一方で、共有者全員の意思決定が必要な場面が多く、売却をはじめとする管理でトラブルが起こることも。

共有名義で不動産を購入する場合は、将来の売却まで考えて購入しなければ、問題が発生するかもしれません。不動産の共有名義に関する基礎知識を以下にまとめました。

共有持分とは

共有持分は、特定の人物が不動産全体に対して持つ所有権の比率です。例えば、4人が均等な割合で不動産を所有する場合、持分割合はそれぞれ25%(4分の1)となります。持分割合の所有権は物件全体の権利に及ぶため、持分の所有範囲は不動産の面積に限った話ではありません。

例えば、共有名義の不動産を不動産投資に活用した場合は、賃料収入・売却代金の取り分も持分割合で決定します。共有持分のある共有者は、持分割合に応じた不動産の権利を所有しているといえるでしょう。

持分割合を決定する方法

持分割合は、基本的に不動産購入時の資金の負担割合と同じです。例えば、8,000万円の物件の購入時に夫が6,000万円、妻が2,000万円を負担した場合、持分割合は夫が4分の3、妻が4分の1。住宅ローンを利用する場合は、頭金と住宅ローンの借入額を含めた実質の負担割合で決定します。

一方で、相続による持分割合は法定相続分によって決まります。例えば、配偶者・子2人であれば、配偶者が2分の1、子どもが各4分の1です。

また、実際の持分割合は必ずしもキリのいい数字になるわけではありません。端数をそのままにすると、持分割合の計算が困難になる場合があります。例えば、59.2929%を調整して、60%になるように端数を調整することも可能です。

共有者ができる行為の範囲

共有者は不動産に対して、大きく分けて保存・管理・変更(処分)の3つの行為をおこなえます。ただし、行為によってはほかの共有者の同意が必要になることも。以下の表に、それぞれの行為に対する内容をまとめました。

行為の区分 行為の例 共有者の同意
保存行為 修繕、
所有権移転登記
単独で可能
管理行為 リフォーム、
賃貸契約
持分割合の過半数
変更(処分)行為 売却、増改築 全員一致

修繕などの保存行為は、不動産の現状と、価値を維持する行為が該当し単独で実施できます。管理行為は、不動産の改良・利用に関する行為であり、持分割合の過半数の同意がなくては実施できません。変更(処分)行為は、不動産であれば売却や増改築が該当し、全員の同意があって初めて実行できます。

共有名義の不動産の売却は、もっとも同意条件が重い変更(処分)行為に該当するため、共有者の全員の同意を得る必要があります。

共有名義の不動産の売却条件

共有名義の不動産の売却要件を紹介します
共有名義の不動産の売却要件を紹介します

共有名義の基礎知識を踏まえて、共有名義の不動産の売却条件を以下にまとめました。それぞれ詳しく見ていきましょう。

共有者全員が同意する

不動産全体を売却するには、共有者全員の同意が必要になります。つまり、共有者のなかに1人でも反対者がいれば売却できません。そのため、売買契約当日には、共有者全員が立ち会い、署名・押印をおこなう必要があります。

自身の共有持分のみに限った売却をする

自身が所有する共有部分のみであれば、法律上では単独の譲渡・売却の権利を有しています。そのため、共有持分の売却に関しては共有者の同意は不要です。ただし、法律上は可能であっても、実際の市場で売却できるとは限りません。

不動産の共有持分は、通常の不動産と比較して不動産市場における流動性が低いからです。買主が見つかりにくいだけでなく、売却価格も低くなりやすいでしょう。共有持分の売却は、法律上において問題はなくても、売却方法を考えなければメリットのある取引になるとは限りません。

共有名義(共有持分)の不動産を売却する方法

共有持分を含む共有名義の不動産を売却する方法を解説します
共有持分を含む共有名義の不動産を売却する方法を解説します

共有名義(共有持分)の不動産を売却する方法を3つまとめました。それぞれ詳しく見ていきましょう。

共有者間で共有持分を売却する

共有持分の売却は、共有者間でおこなうこともできます。市場に出さず、共有者間で売買が完結するため、仲介手数料を抑えて取引できることがメリットです。ただし、売買価格は不動産鑑定士などを利用して、客観的な根拠のある価格にしなければ、トラブルになる場合も。

特に共有者が親族であり、持分の売却を了承した際に、相場よりも極端に安い価格に設定するケースが考えられます。しかし、税務署から共有持分の売却を実質的な贈与と判断される場合があり、贈与税の課税対象になることも。共有者が親族で距離が近い場合も、根拠のある価格設定で売却することが重要です。

土地を分筆して個別に売却する

不動産の土地のみを売却する場合は、土地を分筆して個別に売却する選択肢があります。まず、土地家屋調査士に依頼して測量・境界確定をおこないます。

測量の結果をもとに法務局で分筆登記を済ませれば、共有名義から単独名義になるため、自由に売却できるようになります。ただし、土地を分筆した結果、共有持分として所有していた時よりも土地面積が狭くなり、資産価値が低くなることも。また、分筆の手続きにかかる時間も長くなりやすいことから、本当にメリットのある売却になるかどうかを考える必要があるでしょう。

司法手続きによって売却する

共有者間で売却の合意ができなかった場合は、裁判所に申し立てて、共有物分割訴訟に移行することで不動産を売却できます。共有物分割訴訟では、共有物を物理的に分割、または競売にかけることで問題を解決します。共有者間の合意が困難であり、どうしても不動産の共有関係を解消したい場合に取る最終手段です。

共有名義の不動産を売却できないトラブル事例

共有名義の不動産を売却できないトラブル事例を紹介します
共有名義の不動産を売却できないトラブル事例を紹介します

共有名義の不動産を売却できないトラブル事例を以下にまとめました。それぞれ詳しく見ていきましょう。

共有者の意見がまとまらずに手続きが進まない

不動産の利用方法や売却価格に全員が納得できない場合があります。不動産の売却では全員の同意を得る必要があるため、意見がまとまらなければ売却できません。

話し合いを続けても意見が一致することがないと判断した場合は、最終手段である共有物分割訴訟で問題を解決するしかありません。しかし、判決の結果、物件が競売にかけられる場合は、市場価格よりも5割~7割程度で落札されることが一般的です。共有者全員が金銭的な損失を被る可能性があるため、できる限り共有物分割訴訟に頼らずに合意形成できる方法を探りましょう。

共有者の所在がわからず売却が進まない

不動産の所在不明共有者とは、必要な調査を尽くしても居所を確認できない共有者のことです。相続登記を放置したまま共有者が転居を繰り返すと、戸籍や住民票を追っても居所をつかめなくなることがあります。法律上は、共有者全員が同意しなければ不動産を売却できません。よって、所在不明共有者がいる場合は売却手続きを進められません。

ただし、現在の民法では家庭裁判所に申し立てれば所在不明共有者の持分を取得できるため、残りの共有者で不動産を売却可能になりました。そのため、最終手段である共有物分割訴訟に踏み切らなくても不動産の売却ができるようになっています。

共有者が共有持分買取会社を利用した

民法上、共有者は自分の持分を自由に売却できるため、共有持分を専門に買い取る「共有持分買取会社」に持分の売却をすることも可能です。しかし、共有持分買取会社は、買い取ったあとに、ほかの共有者に売却話を持ちかけるケースも。そのため共有持分買取会社の利用自体がトラブルに発展する危険性があります。

万が一、ほかの共有者に共有持分を第三者に売却されてしまった場合にできることは、新しい共有者と共有使用協定を結んでトラブルを防止することです。公正証書で協定を作れば、違反した場合に強制執行が容易になり、未然に問題を防げるでしょう。

共有持分買取会社の利用は、ほかの共有者とのトラブルにつながるため、共有持分を売却する場合は共有者間でおこなうことを推奨します。

共有名義の不動産の売却時にかかる費用と税金

共有名義の不動産の売却時にかかる費用と税金を紹介します
共有名義の不動産の売却時にかかる費用と税金を紹介します

共有名義の不動産の売却時にかかる費用と税金を以下にまとめました。それぞれ詳しく見ていきましょう。

仲介手数料

仲介手数料は、不動産会社に売却を依頼した場合に発生する手数料です。不動産の売買で共通してかかる費用ではありますが、共有者間で売買して不動産会社を通さなかった場合は、必ずしもかかるわけではありません。また、仲介手数料の上限は、次の計算式で定められています。

売買価格の3% +6万円 + 消費税

登記費用

登記費用は、所有権移転登記や抵当権抹消登記など、名義変更にともなう手続きに必要な費用です。登記には手続きごとに異なる額面の登録免許税がかかります。

また、司法書士に登記手続きの代行を依頼する場合は、司法書士報酬も発生。不動産の売却では共通して、登録免許税と司法書士報酬をあわせた登記費用がかかる仕組みです。

測量・分筆費用

土地を分筆して共有名義から単独名義に変えて売却する場合は、測量・分筆にかかる費用を負担する必要があります。費用の相場は土地の広さ・形状の複雑さによって異なり、土地が広く、複雑な地形をしているほど高額になりやすいでしょう。

印紙税

共有名義の不動産を売却するにあたって、売買契約書に課される税金です。契約金額によって税金が異なる仕組みであり、2027年3月31日までは軽減税率が適用されます。具体的には、契約金額が4,000万円であった場合、軽減税率を適用した際の負担金額は1万円です。

譲渡所得税・住民税

譲渡所得税と住民税は、共有名義の不動産に限らず、不動産の売却で利益を得た場合に共通して課される税金です。不動産の所有期間が5年を超えると長期譲渡所得、5年以下の場合は短期譲渡所得として課税されます。不動産の所有期間によって適用される税率が変化する仕組みであり、以下に税率をまとめました。

  短期譲渡所得 長期譲渡所得
所得税率 30% 15%
住民税率 9% 5%
復興特別所得税率 0.63% 0.315%
合計 39.63% 20.315%

贈与税

不動産の共有者間で共有持分を無償、または著しく低い価格で譲渡した場合、贈与とみなされ課税される可能性があります。市場における適切な相場と差額が大きいほど、贈与と判断されやすくなるでしょう。そのため、共有者が親族であっても、不動産鑑定士などに依頼して適正な価格を設定することが重要になります。

まとめ

共有名義の不動産の売却方法は、物件全体の売却と、共有持分のみを売却する2種類の方法があります。所有者全員の同意を得て物件全体を売却することが理想ですが、意見が分かれた場合や、所在不明者がいれば、裁判所の手を借りる必要があるかもしれません。

自身の共有持分を第三者の会社や投資家へ売却する場合は、トラブルにつながる危険性も。どうしても共有持分を売却したい場合は、できる限り共有者同士の売買を心がけるといいでしょう。

ただし、どちらの方法で売却する場合であっても、それぞれの分野に特化した専門家に相談することをおすすめします。専門家と連携して最善のプランを立てられれば、トラブルを避けつつスムーズに取引を進められるでしょう。

長谷川 賢努

執筆者

長谷川 賢努

AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士

大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ

ライフマネー研究所
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