相続した不動産は3年以内に売却するといい?その理由と控除の内容を詳しく解説!

そこで本記事では、相続で取得した不動産を取得から3年以内に売却した時の税金に焦点をあてます。相続した不動産を取得から3年以内に売却した時の、税金の計算方法と税金を計算する時の特例を紹介し、実際に税金の計算をシミュレーションします。また税金面以外の、不動産を相続した時早めに売却するメリットもあわせて解説するので、ぜひご一読ください。
記事の目次
相続した不動産を売却した時にかかる税金にはどのようなものがある?

まずは、相続した不動産を売却する際にかかる主な税金の種類とその内容、税率を見ていきましょう。
譲渡所得税
不動産売却で出た利益を譲渡所得といいますが、それに対して発生する税金が譲渡所得税です。所得税と住民税が発生し、これらを総称して譲渡所得税と呼びます。譲渡所得は、以下の式で算出されます。
譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用) -特別控除額
収入金額は、不動産を売却で得た収入を指します。また、譲渡所得を計算する際は収入金額から特別控除額を差し引きます。その内容は取引によって異なり、相続不動産の売却なら、3,000万円の特別控除もあります。
譲渡所得税は、上記の金額に決められた税率をかけ合わせて算出します。税率は、不動産の所有期間が譲渡した年の1月1日時点で5年以下か、超えているかによって異なります。不動産が、相続によって得たものなら原則、被相続人(不動産などの相続財産を遺して亡くなった人)が取得した日を起算日にして計算されます。
所有期間に応じた税率 | 所有期間5年以下 | 所有期間5年超 |
---|---|---|
所得税率 | 30% | 15% |
住民税率 | 9% | 5% |
合計税率 | 39% | 20% |
※2013年(平成25年)から2037年(令和19年)12月31日までの売却は、復興特別所得税として所得税額の2.1%が上乗せされます。
印紙税
印紙税は、不動産の売買契約書を作成する時にかかる税金を指します。印紙税の金額は、契約書に記載された金額に応じて高くなります。その他、不動産販売会社に仲介を依頼すると、仲介手数料と消費税もかかります。
記載された 契約金額 |
軽減税額 (令和6年3月31日まで) |
本則税額 (令和6年4月1日以降) |
---|---|---|
1万円未満 | 0円(非課税) | 0円(非課税) |
10万円以下 | 200円 | 200円 |
10万円を超え 50万円以下 |
200円 | 400円 |
50万円を超え 100万円以下 |
500円 | 1,000円 |
100万円を超え 500万円以下 |
1,000円 | 2,000円 |
500万円を超え 1,000万円以下 |
5,000円 | 1万円 |
1,000万円を超え 5,000万円以下 |
1万円 | 2万円 |
5,000万円を超え 1億円以下 |
3万円 | 6万円 |
1億円を超え 5億円以下 |
6万円 | 10万円 |
5億円を超え 10億円以下 |
16万円 | 20万円 |
印紙税の金額を算出するには、上記の表を見ればよいため複雑な計算は不要です。例えば、不動産売買契約金額が8,000万円であれば、2024年(令和6年)3月31日までなら3万円、同年4月1日以降であれば6万円です。
相続した不動産を3年以内に売却すると利用できる「取得費加算」とは?

実際の譲渡所得税は、納税額の負担を軽減する特例があるため、計算によって求められる金額より少なく済むケースがあります。本章では、不動産を相続した時に活用できる特例のひとつ、「取得費加算」について解説します。
取得費加算特例の条件
取得費加算の特例は、相続した不動産を3年以内に売却した時に受けられる特例です。以下の条件を満たせば、不動産売却によって得た金額から差し引ける取得費の金額が大きくなります。結果、譲渡所得が低くなり、納税する税金が減ったり0円になる場合があります。取得費加算適用の条件は以下のとおりです。
- 相続や遺贈により財産を得た者(相続人)である
- 財産を相続するにあたって相続税が課されている
- 相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡している
取得費加算特例の計算式
取得費加算の特例で、控除額の計算式は以下のとおりです。
その人の相続税の課税価格+その人の債務控除額
ケース2:特例を利用した場合
例えば、土地8,000万円と現金8,000万円を相続して相続税を3,500万円納めたとします。
この場合、
相続税額=3,500万円
相続税課税価格の計算の基礎とされた、売却した財産の課税価格=8,000万円
相続税の課税価格=土地8,000万円と現金8,000万円=1億6,000万円
債務控除額=なし
3,500万円×(8,000万円÷1億6,000万円)=1,750万円となります。
加えて、土地の購入価格が6,000万円で、売却価格が8,000万円、譲渡費用が300万円だとします。
すると特例を利用する場合の控除額を差し引いた譲渡所得は下記のとおりです。
8,000万円 -(300万+6,000万円) - 1,750万円=-50万円
譲渡所得がマイナスになっているので、譲渡所得税は0円となります。
ケース2:特例を利用しなかった場合
特例を利用しなかった場合は、下記になります。
8,000万円 -(300万 +6,000万円) =1,700万円
不動産の所有期間が3年以内なので、短期譲渡所得税率39%(復興税を加味すると39.63%)で、譲渡所得税は663万円(復興税を加味すると約673万円)です。
つまり、取得費加算の特例によって600万円以上も節税できたことになります。
条件によって軽減できる所得税の金額は異なりますが、うまく利用すれば所得税を大幅に軽減できるので積極的に利用しましょう。
参考:国税庁ホームページ「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
なお、取得費加算の特例は、相続税を納めた人のみに適用されます。相続税が課されなかった場合は、取得費加算の特例は適用対象外です。
申告・利用方法
不動産を売却して利益が発生したら、売却した翌年の2月16日~3月15日に確定申告をします。取得費加算の特例を利用する際に必要な書類は次のとおりです。
- 確定申告書第一〜三表
- 不動産の取得費用がわかる資料
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 登記事項証明書
- 不動産の売却代金がわかる資料
- 不動産の売却費用がわかる資料
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】 )など
- 源泉徴収票
- 本人確認書類
相続した不動産を3年以内に売却すると利用できる控除「3,000万円の特別控除」とは?

相続不動産を売却した時に活用できる特例には、取得費加算に加えて3,000万円の特別控除があります。本章では、その内容を解説します。
3,000万円の特別控除
譲渡所得税に適用される特例としては、上記の取得費加算の特例に加え、3,000万円の特別控除が存在します。この特例は、一定の条件をクリアすることを前提に、相続した不動産を売却して得た譲渡益を3,000万円まで課税が免除されるものです。
3,000万円の特別控除が適用される条件は、細かく規定されています。
【適用要件】
- 相続開始の直前まで被相続人が1人で住んでいたこと
- 被相続人が直前に老人ホームに入所していた場合も含む
- 被相続人から相続した家屋を取り壊した土地の売却であること
- 相続から取り壊し時までに、取り壊した家屋や土地が居住や事業(貸付けなど)の用に供されていないこと
- 2016年(平成28年)4月1日から2023年(令和5年)12月31日までに売ること
- 相続開始から3年を経過する日の属する12月31日までに売ること
- 売却相手が親子や配偶者など特別な関係にある人(法人含む)でないこと
- 売却価格が1億円以下であること
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例や、他の収用に関する特別控除の適用を受けていないこと
参考:国税庁ホームページ「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」
特例として、3,000万円の特別控除が適用される場合、売却益が3,000万円以下の際は譲渡所得税を納める必要がなくなります。一方、売却益が3,000万円以上の場合は、課税譲渡所得から3,000万円を差し引いて計算されるので節税効果が期待できます。ただし、取得費加算の特例と併用はできないため、いずれか一方を選択する必要があります。
これらの特例はいずれも、不動産を3年以内に売却した場合にのみ適用されます。不動産の保有には固定資産税やメンテナンス費用がかかるため、自分で住んだり人に貸し出す予定がない場合は早めの売却が賢明です。早期の売却は、節税だけでなく将来的な出費も最小限に抑える効果を期待できます。
申告・利用方法
相続空き家の3,000万円特別控除の特例を利用したら、譲渡所得が0円になっても確定申告が必要です。確定申告の期間は売却した翌年の2月16日~3月15日です。必要な書類は次のとおりです。
- 確定申告書第一〜三表
- 不動産の取得費用がわかる資料
- 登記事項証明書
- 不動産の売却代金がわかる資料
- 不動産の売却費用がわかる資料
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】) など
- 源泉徴収票
- 本人確認書類
- 売却代金が1億円以下とわかる書類(売買契約書の写しなど)
- 耐震基準適合証明書(土地のみの売却では不要)
- 被相続人居住用家屋等確認書
相続空き家の3,000万円特別控除の特例は、確定申告に必要な書類の数が多くなっています。不備なく正確に用意するのは大変です。自分だけで準備するのが困難な場合は、不動産売却や相続に詳しい税理士に相談しましょう。
節税以外で相続した不動産を3年以内に売却するメリットは?

何か特別な理由がある場合はその限りではありませんが、相続した不動産を使用しない場合は3年以内に売却したほうが賢明です。理由は以下のとおりです。
相続した不動産を放置すると罰則がある
2023年12月現在まで、相続した不動産の処遇に期限や罰則はありませんでした。しかし、2024年4月以降は相続財産を放置すると罰則が発生します。不動産を所有し続ける場合は相続登記が義務化になり、3年以内に登記しないと10万円以下の過料を科されます。注意すべきなのは、この法律は過去の相続にも適用されることです。正当な理由がない場合は3年以内に登記が必要です。相続した不動産は放置せず、早急に処理を決めることが賢明です。
相続した不動産を放置すると価値が下がってしまう
手入れのない空き家は劣化や腐食が進み、価値が下がる可能性が高まります。不動産価値の減少により将来の売却益も損なわれるかもしれません。相続した不動産は早めに有効活用を考え、固定資産税や維持費の発生を把握しましょう。そのため、資産価値が下がらないうちに売却するのは合理的な選択です。
不動産の維持費がかかる
不動産は維持管理しなければ、自然災害などで倒壊する可能性があります。単に自分の敷地内で壊れるならまだましですが、通行人にけがをさせてしまったり、周りの家屋に影響があると困ります。維持管理にはお金がかかります。自分で住んだり、人に貸すのであればよいですが、目的なく不動産を持ち続けるのはデメリットになります。であれば、早めに売却してしまったほうがよいでしょう。
不動産相続についてよくある質問
相続した不動産を売却した時にかかる税金にはどのようなものがある?
相続した不動産を売却する際にかかる主な税金には、譲渡所得税と印紙税があります。
譲渡所得税は、不動産売却によって出た利益に対して、所得税と住民税にかかる税金です。基本的には、不動産の購入金額よりも売却金額が高い場合に発生します。所有期間が5年以内の場合は39.63%、5年以上の場合は20.315%です。印紙税は、売買契約書を作成する時に発生する税金です。契約書に記載された金額に応じて変わります。
相続した不動産を3年以内に売却すると税金が軽減される?
相続した不動産を3年以内に売却すると、取得費加算の特例か3,000万円の特別控除を受けられます。
取得費加算の特例の適用には、相続人であること、相続税が課されたこと、相続税の申告期限の翌日から3年以内に譲渡したことを満たすのが条件です。
3,000万円の特別控除とは、一定の条件を満たすと、不動産売却の利益の3,000万円まで免税される制度です。適用条件は、 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されていることや、相続する前に、被相続人以外が暮らしていなかったことなどがあります。なお、この特例は他の特例と併用できません。
節税以外で相続した不動産を3年以内に売却するメリットは?
まず3年以内に売却し、条件を満たせば特別控除が活用できます。また現在は、不動産の処遇に罰則はありませんが、2024年4月以降、登記をしなければ罰則もあるので早めに処理をしなければなりません。ただ単に不動産を所有していると、維持費がかかってしまって不経済です。売却をする考えであっても、不動産を放置しておくと、管理不十分で価値が下がってしまう可能性もあるので、早めに売却するほうが賢明です。
特別な理由がある場合は一概にはいえませんが、相続した不動産はできるだけ早く登記して所有するか、3年以内に売却することをおすすめします!
まとめ
本記事では、相続で取得した不動産を取得から3年以内に売却した時の税金に焦点をあて、税金の計算方法と税金を計算する時の特例を紹介しました。そして、実際に税金の計算をシミュレーションし、不動産を相続した時早めに売却するメリットもあわせて解説しました。
これまでは、相続した不動産の所有をあいまいにできた部分がありましたが、今後はできなくなります。自分が住む場合も、人に貸す場合も、不動産を所有していると維持費がかかります。売却を予定していても、実行が遅くなればなるほど資産価値が下がってしまう原因になります。税金の優遇もあるので、相続した不動産は早めに売却するのを選択肢の一つとして有効に活用しましょう。
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執筆者
長谷川賢努
AFP(日本FP協会認定)、宅地建物取引士
大学を卒業後、不動産会社に7年勤務、管理職を務めたが、ひとつの業界にとどまることなく、視野を拡げるため、生命保険会社に業界を超え転職。しかしながら、もっと多様な角度から金融商品を提案できるよう、再度転職を決意。今までの経験を活かし、生命保険代理業をおこなう不動産会社の企画室という部署の立ち上げに参画し、商品、セミナー、業務内容の改善を担う。現在は、個人の資産形成コンサルティング業務などもおこなっている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ