テーマ:お隣さん

ダム子

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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「ああもう、このまま世界が滅びてもいいぃ、わたし、こんなに幸せ…」
 私も同じ気持ちだった。それをダム子に向かって声に出して伝えたかったが、あまりの感動で喉に言葉がつまった。ダム子の声が部屋の四方に吸収され、これまで感じたことのない程の地響きが起きる。二人の住むアパートが大きく揺れる。地中の奥底から、突き上がってくるかのような大地の揺れであった。それでも私はダム子を離さない。離したりするものか、と強く思う。ようやくダム子と出会えたのだ。これほど運命を感じたことはない。アパートの壁が崩れ落ちる。街中の電気が落ち、世界が真っ暗になる。都内の高層マンションが、ドミノが崩れるみたいにバタバタと倒れていく。人々の泣き叫ぶ声が聞こえる。鳥の大群が大きな鳴き声を上げながら、空中を右往左往して飛び回る。ダム子と私は抱き合っている。強く抱き合っている。ダム子と私の住むアパートの底を中心に、地面が割れ、地表に存在するものすべてがその真っ暗な空洞に吸い込まれていく。私とダム子も吸い込まれる。二人はお互いの目をまっすぐに見つめ合い、地球の中心へ向かって、深く、深く、抱き合いながら落ちてゆく。

ダム子

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