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ダム子

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 ダム子の予言は決まって、あの不吉な音楽、鼻唄、そして間奏のタイミングで予言という定型化された形を持って行われた。私は毎夜、その音楽が流れ始めればダム子の部屋に耳を傾け、予言を待つ。当然、私とてこんなにも薄気味悪いものを聞きたくないというのはあるのだが、それでも予言がされるとなれば群衆はそれを聞かねばならぬという気持ちが起こるもの、予言を聞いておけば免れることができる災厄であったと後で後悔したくないのだ。だから私も予言が始まればそれを聞かざるをえない。もちろん何度もダム子の予言を、偶然なのではないかと疑ったりもしたわけだが、予言を聞けば聞く程、ダム子の予言は百発百中で、こうなれば信じざるをえないのだった。たとえば、
「い、いやあ、私の大好きな俳優が、元日婚だなんて、それもあれ、相手はあのグラビアアイドル、巨乳だけが取り柄のくだらない女ああ」
 とダム子が予言をしたときなどは、そのときに私がどこのテレビや週刊誌を見ても、そういった類いの組み合わせのカップルが結婚したという報道はなかったのだが、その後一ヶ月位経った後、「人気俳優が極秘で元日婚!相手は人気グラビアアイドルのIだった」という記事が週刊誌で大きな話題になった。ダム子の予言した通り、巨乳で人気のグラビアアイドルだった。他にも、
「ええぇ、嘘お、あんなに真面目そうなのに、不倫だなんて、あの人の曲、わたし好きだったのにぃぃ」
 と言えばそのまた何週間かした後に、人気歌手の不倫報道が出る。といった具合で、ダム子の予言にはこのようなゴシップネタも多く、これくらいはただダム子の予言が本物であることを再認識するくらいなのでなんともないのだが、たとえば、
「あ、危ないっ、階段で足を挫いて怪我をしてしまう人が近くにいる気がするうぅ」
 などと言い出したときにはもう最悪で、近くにいる人とはつまり私のことであるから、それから数日も経たないうちに私は階段でこけて捻挫をすることになったし、
「ああっ、なんか、カレーの匂いがするぅ、きっと誰か近くにカレーが食べたくてしょうがない人が出てくるに違いないぃぃ」
 と言われれば、次の日はもうカレーを食べることで頭が一杯になり、他のものが食べられなくなる。ここまでいけば、それは予言ではなくて催眠ではないか、と人は思うだろうがそうではない。ダム子の予言を聞いたから、自分がカレーを食べようと思ったわけではなく、ダム子の予言を聞く前から私がカレーを食べることには決まっていたのだとしか私にはもう思えないのだった。これが予言というものなのだろう。ダム子の予言は、どんどん私の生活とは切っても切り離せないものになっていった。休日の過ごし方や、毎日の仕事でも、ダム子の予言したことが至る所で起きる。

ダム子

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