テーマ:お隣さん

ダム子

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 これが正真正銘の運命の出会いだと思った。ダム子も、「なんだか運命みたいですね」と言った。「あの、少し私の部屋で話しませんか。今日は一人でいたくなくて」とも言った。私には断る理由がなかった。
 

 ダム子の部屋の間取りはよく知っている通りの部屋で、というのはもちろん同じアパートなのだから当たり前のことなのだが、細かな所で、家具を置く位置だとか、部屋の匂いだとかは違って、それがまた不思議な感覚だった。ダム子は家の中に入るなり、「どうぞお気を遣わず、好きに座って下さい」と言った。好きに座れと言われて、反対にどこに座るのか決めあぐねてしまいおろおろする私を見て、ダム子が少し笑った。美しい笑顔だった。その後、ダム子が冷蔵庫の中から缶ビールを二つ出し、「なんだか女の一人暮らしなのに、冷蔵庫の中から自然とビールが出てくるなんて」と恥ずかしそうにしながらその内の一つを私に手渡した。よく冷えたビールであった。二人でくだらない雑談をしながら、ビールを飲み干す。アルコールのせいか、ダム子の顔がほんのりと赤くなる。いつの間にか隣合わせでぴったりと体を寄せ合い座る二人。肩が触れ合い、ダム子の髪の毛の香りが鼻をつく。
「ねえ、私ね、ずっと前からこうなることが分かっていたような気がするの」
「それはどうして」
「どうしてかはよく分からないけど、分かったの」
「それは、予言みたいなもの?」
「うーん、予言というか、予感っていうか。上手くは説明できないけど、そうなの」
 ダム子は自分が予言者であることを私には話さなかった。あるいは自分が予言者であることを自覚していないのかもしれない。
「なんだか眠くなってきちゃった」
 そう言いながら、ダム子が部屋の電気を消した。暗くなった部屋の中、ダム子の顔が見えなくなるが、やがて目は慣れ薄闇の中にダム子の顔が浮かび上がる。とろんとした目をして、ダム子が私に抱きついてくる。
「ね、きっと運命だと思うの。私とあなたが出会ったの」
「僕もそう思うよ」
 互いに耳元で、囁くように声をかける。幸福な瞬間だった。目を瞑り、部屋の中に聞き慣れた音楽が流れてくるのに身を任せる。ダム子の呟く声が聞こえる。何を言っているのかが分からない、いつものダム子の美しい声が部屋の中に響き渡る。ズッチャズッチャ、カッカ、ッタチャタン、カッ、と不規則なリズムで、聴いたこともない楽器で、ビートが刻まれる。ダム子が大きく息を吸った。

ダム子

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