テーマ:ご当地物語 / 愛知県西尾張地方

やっぱ赤だがね

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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 少し行くと居酒屋の前で大きな鍋の中、串に刺された土手煮が振舞われていた。勿の論に、赤味噌である。赤味噌をぐつぐつ煮込んで、赤と言うより黒くなっている。竜男は遠慮なく土手煮を頂いた。冬の道端で食べる、アツアツの土手煮は最高だった。
「やっぱ赤だがね」と、赤味噌で煮込んだホルモンを口に誰もが思った。きっと、多分。
 酒を手にスルメを口に裸連は、わっしょいわっしょいと、道を練り歩く。沿道の見物人が、裸男が身につける厄除けの布切れを目当てに、くれろくれろと手を差し出す。裸男が布切れを引き裂いて、見物人に渡す。見物人に、タバコを一本くれないか、とタバコを頂戴する。其処彼処で笹竹が天に向け立てられ、裸男がよじ登る。時に上から落ちて怪我をする。酒に酔い潰れた裸男が道の隅に倒れている。路地裏で我慢できずに立ちションベンしている。多くの屋台が出て、沿道を賑やかにしている。
 そのうち竜男たちの裸連も参道に入り、無事笹の奉納を済ませた。その後結局竜男は仲間達と共に、神男を触りに渦に巻かれ、怪我をして、二、三日ほど仕事を休むの羽目となった。

「やっぱし僕、ラーメンの中でスガキヤのラーメンが一番好き」
 青井家の小学五年になる長男、松一が白いスープのスガキヤラーメンを前にして言う。
 ここは植木の街である。そこで長男の名を松一と竜男が名づけた。因みに竜男と言う名は、中日ドラゴンズの大ファンである、彼の父親が名づけた。
 休日、竜男と松一は二人で暇潰しに、近所のホームセンターへやって来た。大きなホームセンターである。いろいろな物が沢山売っている。暇潰しにもってこいである。見て回っていると、ついつい余計な買い物をしてしまう。二人も既に、本当に必要なのか?と、冷静に考えれば首を捻るような、便利グッズなどを数点購入した。
 小腹が空いたと松一が言うので、二人は店内のフードコートにあるスガキヤでラーメンを注文した。注文の品が出来上がったと、渡されたブザーが鳴る。台に乗ったラーメンをテーブルに運ぶ。小腹の空いた松一はすぐさまラーメンを口にすすった。そこで口に出たのが、先の言葉である。息子に続けて父が言う。
「そうだよな、美味しいよな。お父さんも子供の頃からどれだけスガキヤには世話になってきたことやら」
 ここいら、至る所に、スガキヤのチェーン店が見られる。白いスープのスガキヤラーメンは昔から、旨い、安い、お手軽、と三拍子揃った、名古屋近辺に暮らす者達のソウルフードである。値段が安いので学生でも小遣いで気楽に食べることが出来る。実際竜男も中学生の頃、外に友達と遊びに行って腹が減ると、よくスガキヤに入ってラーメンを食べた。コショウを沢山入れ過ぎてむせたりした。ソフトクリームもよく注文した。五目ごはんなんかもある。スガキヤでラーメンをたのむと付いてくる〈ラーメンフォーク〉と呼ばれる独自な食器は、ニューヨーク近代美術館でも販売されているらしい。

やっぱ赤だがね

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