テーマ:ご当地物語 / 愛知県西尾張地方

やっぱ赤だがね

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「わたし、うなぎは嫌。だったら風来坊で手羽先が食べたい」
「あらっ、またスパイシーだね。俺はそれでも良いけど、松一は?」
「うん、風来坊でもいいよ」
「じゃあ決定だ。糸子、それでいいか?」
「ええ、良いわ」
 青井家一同は夕方、車に乗って風来坊へ向かった。
 元祖風来坊である。手羽先といえば風来坊である。山ちゃんが世界の山ちゃんと豪語するのであれば、風来坊は大宇宙の風来坊である。山ちゃんも悪かないが、やっぱ風来坊が最高だ。そんな風に考えながら、竜男はハンドルを握り、車を風来坊へと走らせた。途中大分薄暗くなって来たので、ヘッドライトをつけた。
 手羽先を誂えた。ターザン焼きを誂えた。刺し盛りを誂えた。酒のつまみのような物ばかりを誂えた。竜男は生ビールを何杯も御代わりする。子供達はおにぎりを誂え食べる。子供達への褒美としての外食じゃないのか?何だか、一番喜んでいるのは、竜男のようだ。まあ、良しとしよう。帰りは糸子がハンドルを握り、家路についた。
 四月になり青井家の子供達も、また小学校へ通い始めたた。学校にはピカピカの一年生が待っている。ちっちゃなからだに背負った、新しいランドセルが目に眩しい。六年生になった松一は、あと一年で卒業である。長いようで短く、短いようで長いのが小学校の六年間である。まだ新しいクラスに慣れない楓が、仲が良かった友達と違うクラスになってつまらない、と家に帰って愚痴をこぼす。「直ぐにまた新しい友達が出来るよ」と、糸子が楓を慰める。
 四月の下旬日曜日の朝、竜男は無性に串カツを食べたくなった。
「今からおちょぼさんに、串カツ食べに行かないか」竜男が家族の皆に提案する。
「特に今日は用事もないから、いいわよ行きましょうか」と糸子が賛成する。
「僕、どてが良い」松一は串カツと人気を二分する、どて焼きが食べたいようだ。
「わたし串カツ、ソースが良い、ソースで食べる」と、やっと最近新しい友達が出来て喜ぶ、楓が元気に言う。
「楓、ソースかよ。やっぱソースよか味噌だろ」と半分冗談に、竜男が反駁を加える。
 斯くして四人は車に乗り込んだ。運転席、竜男は車を西へ走らせる。田が見える。畑が見える。植木が見える。民家が見える。季節じゃないが、いちょう並木が見える。木曽川を渡る。長良川を渡る。
 暫く車を走らせると、千代保稲荷神社の赤い大鳥居が見えてきた。稲荷と言えば、やっぱ赤だがね。
 通称「おちょぼさん」こと岐阜県海津市にある千代保稲荷神社は、京都の伏見稲荷、愛知の豊川稲荷、と並び日本三大稲荷などと呼ばれることもある。愛知県の西側に住む竜男達は、愛知県の東端にある豊川稲荷へ行くことはまずない。そのかわり直ぐ川を越えた所にある岐阜県の千代保稲荷へは度々足を運ばせる。此処から更に車を西へ走らせ揖斐川を渡ると、養老山地が見えてきて、其処には孝行伝説でお馴染みの養老の滝がある。養老の滝周辺は大変に空気が気持ち良い。大気が薄っすら紫がかっている。写真に撮ってもそれが分かる。確実に良い気が流れていると思われる。天気の良い日、おんぼろリフトに乗って滝へ上がると、リフトから彼らの暮らす濃尾平野が一望出来る。此方にも時折竜男達は訪れる。

やっぱ赤だがね

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