テーマ:一人暮らし

部屋交換

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 ここまで綺麗にレイアウトできるものなんだな、と感心してしまった。部屋が狭いという印象がすっかり消えてしまった。
 部屋交換と言い出したのは、もしかしたら自慢の部屋を見て欲しかったのかも、なんて勘ぐってしまうほどだ。
 ベッドにそっと腰掛ける。彼女の残り香もぬくもりも残ってなんかいないのに、そこにまだ残っているかのような錯覚を覚えた。
 立ち上がり、本棚を眺めてみる。本棚は半分くらいしか本が埋まっていない。残りは小物が飾られている。大学の講義に使う教科書から、漫画本、編み物の本、多いのは料理本だ。ボールペン字の練習帳があった。手にとって開いてみると、途中まで書き込みがあるが最初のほうで終わっている。始めたばかりなのか、あるいはすぐに飽きてしまったのだろうか。
 部屋には熊のぬいぐるみやマスコットが多く目につく。黒い熊に白い熊、どこかで見たことのあるような黄色い熊のキャラクター。
 ここにいるだけで彼女の心の中を覗いているみたいで少し申し訳なく思ってしまった。
 夕食にはスーパーで買ってきた弁当を食べる。華やかな部屋で食べるスーパーの弁当は味気なかった。部屋に合わないちぐはぐな夕食に居心地の悪さを感じた。
 食べ終わったら部屋の電気を消して、シャワーを浴びるためにユニットバスへ向かう。自分のアパートにいたときは部屋を出るたびにいちいち電気を消したりしない。ここではなるべく電気を節約しなければならない気がした。
 服を脱いでユニットバスへ入る。誰も見ていないのに、初めての場所で服を脱ぐのはとても恥ずかしかった。しかもここは女の子の部屋なのだ。何も感じないほど神経は太くできていない。
 いつものアパートでは風呂とトイレが別だ。ユニットバスはなんだか落ち着かなかった。最初は使い方がよくわからなかった。シャワーカーテンを浴槽の中に入れて水が外へ飛び跳ねないようにする。濡らさないように、汚さないように、非常に気を使う。ホテルや旅館に泊まる時以上に神経を使ってしまっていた。シャワーを浴びていても気が休まらない。アパートに居る時よりも短時間で済ませ、体を拭いてユニットバスを出た。
 パンツ一丁で濡れた髪を吹いている時に渚からチャットが入る。
 ――翔君の部屋、広いねー。二部屋もあるんだ。いいなー。
 そうだ。渚も俺の部屋にいるんだ。なんか気恥ずかしく思う。渚は俺の部屋を見てどう思ったんだろう。自分では片付けて整頓したつもりだったが、女の子からしてみたらそれでも散らかっていると思ったかもしれない。

部屋交換

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