テーマ:一人暮らし

部屋交換

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 ただ、準備だけは必要だ。まっさきに頭に浮かんだのは引き出しの奥にしまってあるいかがわしい雑誌類だ。女の子には見せられない本。引き出しをバッテンで封鎖してもいいが、念のため処分しておくことにした。そして入念に部屋を掃除する。いらないものを捨て、整理整頓する。ここまで自分の部屋が綺麗になるものか、と思えるほどに片付いた。

 部屋交換の当日になった。鍵はお互いの郵便受けに入れて大学に出かける。郵便受けはダイヤルを数字で合わせると開けることができる。お互いに番号を教えておけばいい。大学の講義を終えて、顔を合わせないまま互いの駅へと向かった。
 いつもと違う改札を抜ける。東小金井駅は初めて降りた。駅を出るとそこは高い建物がなく、のどかですっきりとした街だなという印象だった。長く吉祥寺に住んでいるとビルと雑踏に慣れてしまっていた。どことなく落ち着くこの駅もいいなと思った。
 一〇分ほど歩くと渚のワンルームマンションに着いた。マンションといっても三階建てのこぢんまりとした建物だ。一階のエントランスの入り口で四桁の番号を押して中へ入る。右手にある郵便受けへと向かう。ダイヤルを合わせて扉を開ける。中を見ると、「一日よろしくね」というメモと鍵が入っていた。
 マンションの三階へと上がった。なるべく人に会わないように無意識に早足になってしまう。初めて訪れるマンション。初めて入る部屋。鼓動の高まりを感じながら鍵を差し入れ、ドアを開けた。
 ふわっといい匂いがした。最初は気のせいかと思ったが、たぶん渚が香水を振りまいておいたのだと気づく。
 玄関は狭い。靴の箱が山積みにされているので靴を一足置くだけのスペースしか残されていない。玄関を上がると細くて短い廊下の先に居室がある。廊下の左側には小さいキッチン。右側にはトイレと風呂がいっしょになったユニットバス。第一印象は「ちょっと狭い」だ。
 廊下の先のドアを開ける。そこには女の子の部屋があった。
 八畳ほどの広さの部屋に置かれた家具は全部が白で統一されていた。白い本棚に白いベッド、白い机に白いチェスト。家具の配置のバランスが良く、センスの良さを感じる。それらの上には小さいぬいぐるみや小物に加え、絵や写真が配置されている。上に置かれた物の下にはレースのついた布やコースターのようなものが敷かれている。カーテンはピンクで、カーテンレールからは国旗をあしらったような飾りが垂れ下がっている。

部屋交換

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