みどりの手紙
しかしそれから三日後、再び手紙は郵便受けに入れられていた。同じような色の、僅かにデザインが違っている緑色の封筒を見つけたとき、私は少し苛立った。中身を見てみれば、やはり同じような内容で、私は同じように机の中へしまった。
そして一週間、二週間、一か月の間、差出人不明のその緑色の手紙は定期的に私の郵便受けへ届いた。
何か危害を加えられるわけではない、手紙の内容も極めて清潔感がある字面と言葉で不快だということもない。けれど流石にこれだけ続くのはいよいよ普通じゃないと思い、私が人へ初めてその手紙について相談をしたのは、入れられてからちょうど二か月ほど経ったときだった。
「それは鈴子さんへ宛てた手紙なのでは?」
と言ったのは、翠さんだった。
翠さんは私みたいな女を何度も食事に誘うような珍しい男の人だ。その日もようやく目処のついた仕事の合間に翠さんと『Buono!』というあからさまな名前のついたいつものイタリア料理屋でワイングラスを傾けていた。
翠さんは薄生地のピザをナイフとフォークで器用にくるくると丸め上品に口へと運びながら、「それはきっと鈴子さんへの手紙ですよ」ともう一度言った。
「まさか!」
私は大袈裟に驚いて見せ、そして翠さんがやっているように上手くピザを巻こうとしたが失敗し、結局手を使って口の中へ入れた。
「そもそも、どうして鈴子さんはその手紙が自分へ宛てたものだと思わなかったのですか。宛名は書いていなかったんですよね」
「そうですけど…あまりにも身に覚えがなかったので」
翠さんは静かにナイフとフォークを取り皿の上へ置き、ワインを一口飲んだ。
翠さんの動きはいつでもとてもしなやかで無駄がない。そしてその無駄のない所作には、神経質さと同時に品があった。翠さんの綺麗な食べ方を見ているのが私は好きだ。だから、特に男性からの誘いを面倒だからと断る私が(そうすると決まって二度目の誘いの声は掛からない)、翠さんとは何度も食事をしたいと思うのかもしれない。
口へ運んだワイングラスをゆっくりとテーブルへ戻すと、翠さんは顎の下で手を組んで私をじっと見つめた。私はそんな翠さんの組んだ手先を見た。翠さんの指の爪が伸びすぎていたり深く切りすぎていたりしているのを私は一度も見たことがない。いつでも程よく均一に整っている。
「鈴子さんはとても魅力的な女性だと、僕は思っています。だからそのような手紙くらい貰って当然のような気がしますけどね」
みどりの手紙