7月期
原っぱの怪人
それによると、道夫ははじめて知ったのですが、よう子さんのおとうさん、まえにかいたアメリカ人のコックだった父親は、なにか大変な失敗を演じたとみえて、すぐにおやといのコックをやめさせられ、その日のうちに荷物をまとめて、家族全員でどこかへ引っ越してしまったというのです。清一は清一なりに、やっぱりよう子さんのゆくえを探(さが)していたのです。
道夫は、よう子さんが、ほんとうにいなくなったのを知って悲しみました。それと同時に、よう子さんと清一がいっしょでなかったことがわかってホッとしました。
それからあと、道夫はよう子さんを見ることはありませんでした。清一も同じことで、クラスのだれも、よう子さんに会った者はいません。
半年後、清一と道夫は、同じ中学校にはいり、いっしょに通学しました。今は、清一は家業(かぎょう)をついでいて、道夫のほうは牛込の隣りの戸塚にある私立大学にかよっていますが、あいかわらず仲良しです。
牛屋(ぎゅうや)が原(はら)はなくなりましたが、いまでも道夫は、夏の日ざしの弱まった夕暮れ、どこかの原っぱのそばをとおりかかると、薄闇(うすやみ)のなかからマントをひるがえした怪人があらわれるような気がして、少年の日を思い出します。
原っぱの怪人