7月期
サンターナ99
野球中継だった。
私は必死で背伸びをし、スクリーン右下のスコアを確認する。残暑のぬるい空気、土曜日の夕方、突如出現した人だかり。まるで戦後の街頭テレビのようではないか。すわ夢か、と視線を彷徨わせると、人だかりの反対側に伊崎とかよちゃんの顔が見えた。彼らも人波に巻き込まれたらしい。
スピーカーからは実況解説の声が聞こえてくる。
『前年王者の猛追を振りきって迎えた本日。優勝マジックは1。2本の本塁打で逆転に成功、現在9回表で1点のリードです。初優勝までついに、ついにあと2アウトとなりました』
『球団創立11年目です。いやあ……長かったですね。本当に長かった』
皆が固唾を呑んで画面に見入っている。誰も言葉は発しない。アナウンサーの声と、上空で渦巻き始めた風の音だけが聞こえる。
スクリーンの中で、硬い表情の三塁手が大きく息を吐く。顔面骨折したキャプテンは外野守備で強行出場だ。画面の向こうは地響きのような歓声なのだろう、中継カメラが小刻みに揺れている。笑顔の一塁手がホームベースを指差した。
最終回から登板した抑え投手が白球を投じた瞬間、私は空を見上げた。アーケードのはるか上空で、熱い風が吹いている。それは確かに、私の頬を強く叩いていた。
サンターナ99