テーマ:二次創作 / 不思議の国のアリス

アリス君とおかしな隣人

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

「もやっとするんだよ全体的に!これみよがしに菓子を置くな!食わせろよ!訳わからないことを言うな!普通にもてなせ!夢オチを言い訳にするなー!!」
 十数年越しの不満をぶちまけると、帽子屋は漸く口を開いた。
「……いや、私たちもね?ファッションクレイジーというか、そういう役割なもんでね?陛下とかは完全に趣味だけど、煙に巻いてなんぼといいますか、申し訳なさもあったりするんだけれども」
「そうそう、お仕事」
 同調するように三月ウサギが続ける。
「……わかったよ。要は大将首が諸悪の根源なんだろ。この後も飛ばしたいんだけど、裁判所はどこよ」
 寝たままのヤマネにデコピンをかましつつ尋ねると、帽子屋は机の下を指差した。テーブルクロスを捲ると、これまた悪趣味な、赤とハートに彩られた裁判所が広がっている。正規ルートでない以上、スタッフオンリーのそれだろう。ここが結構な高さにあるような錯覚すら覚えるが、確実に一階のはずである。既に白昼夢の感覚はなく、醒める前に奴と決着を付けなければならない。到着点が見えている以上、僕は迷わず飛び込んでやった。そう、幼き頃のあの日のように。
 天井から舞い降りた僕を囲うように、不思議の国の住人共が囲う。早すぎない?とひそひそ声が聞こえるが、黙殺。
「よお、ヒスババア。誰が許せないって一番がお前だよ」
 有須という苗字でからかわれるようになったのはいつ頃からだったか。幼稚園の時だ。昼寝の時間に僕は運悪くこいつらに出くわしてしまった。当時の僕はその物語の存在を知らず、訳のわからない不条理な世界観を前にして、べそをかきながら不思議の国を右往左往したものだ。そしてトドメがラストの裁判。理不尽かつ狂気を孕んだ女王の金切り声は着実に僕の精神をすり減らしていき、処刑の宣言と共に飛びかかってきたトランプ兵の殺気にあてられた僕はそのショックで目を覚ましたのだった。粗相と共に。あまりの苦痛に寝言でも漏らしていたのか(おもらしだけに)、ただでさえ女の子のような名前をネタにいじられていたというのに、それが僕の人生を決定付けた。今でもからかわれる時は明らかに呼び方のイントネーションが違う。正しくは「生簀」であり「パドス」では決してない。
 初手極刑判決かと思いきや、ヒスババアの単語が効いたのか、ぷるぷる小刻みに震えるまま何も言わない。これだから温室育ちは。
「お前の作ったパイなんぞそこまで価値ないから!すぐ首刎ねるのやめろ!知ってるか、トランプ兵はお前に殺されたくないから白薔薇を赤ペンキで塗ってるんだぞ?皆が言うこと聞くのは殺されたくないからってだけ!皆お前のことが嫌いなの!わかる?!」

アリス君とおかしな隣人

ページ: 1 2 3

この作品を
みんなにシェア

6月期作品のトップへ