テーマ:二次創作 / 不思議の国のアリス

アリス君とおかしな隣人

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「アリス、こっちこっち」
 縁側でうたた寝していると、服を着たウサギに話しかけられた。銀縁眼鏡に懐中時計。スーツなんだかよくわからん装飾過多な礼服に身を包んだそいつは、古ぼけた平屋である我が家から明らかに浮いていた。むしろこんなメルヘンなオブジェクトがふさわしい日本家屋が見てみたい。足をぱたぱたさせて「まだかよ」と言わんばかりのその様は妙に人間臭い。
「アリス、じゃなくて有須ね。あ・り・す」
「うん、そういうのいいから。アリス、ついてきてね」
 僕の言を完全に流し、えっちらおっちら庭から出るウサギ。どうせ夢だろうし、乗っかってやるのもやぶさかではない。
「ここね。ここに入るから。君も落っこちたってことで。面倒だから入らなくていいよ」
 ウサギが着いて来させたのは隣の空き家だった。庭の木の根元にぽっかりと、不自然に穴が空いている。
「それでその後、家に入ってね。大小のくだりは抜かすから。あとは猫が処理するから」
 そう言い放つとウサギは穴の中へ、颯爽と吸い込まれていった。覗き込んでも闇が広がるばかりで何も見えない。中に大きめの石を投げ込んでみると、暫くしてから「ぎゃっ」と悲鳴が聞こえた。どうやら相当の深さのようだ。危ないし、言われなくても入ろうとは思わない。いくら寝起きだからってウサギが飛び込んだ穴に続けて飛び込む奴は相当残念なくるくるぱーだろう。因みに僕は白ウサギは大嫌いである。
 改めてまじまじと家を見ると、これまた何の変哲もない戸建である。人が住んでいる気配もなく、扉も開いたまま。ずかずか上がりこんでやると、急に森の匂いが立ち込めた。視覚だけでない、五感に働きかける妖術はかなりの使い手にしか扱えないと何かの漫画で読んだ気がする。「にゃーん」無視する。
「おい、何か聞けよ」
 顔だけの猫とは不気味なものである。
「何を聞けと」
「どこへ行くべきか、とか」
「はあ?呼びつけておいて何だそれ」
「直進して、どうぞ。にゃーん」
 言うことが決まっているならさっさと言えばいい。後ろからアリス感が足りないだとかブツブツ聞こえるが、無視。因みに僕はチェシャ猫も好きではない。何故なら犬派だからだ。
「お前らは一、二を争うレベルで気に食わん!おら、そこのネズミも起きろ。まとめて説教してやる!」
 開口一番、お茶会を開いている呑気な一人と二匹を怒鳴りつけた。ぽかんとしている。ぱっと見豪勢な茶会に見えなくもないが、これがとんだ初見殺しであることを僕はよく知っている。

アリス君とおかしな隣人

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