6月期
アリス君とおかしな隣人
傍聴席がにわかに騒がしくなる。
いや、まあ、好きではない……
いい歳してハートモチーフはキツいよ……
が、概ね僕に優勢だ。女王はそれに気づいたようで、慌てて宣言した。
「無礼者、無礼者め!この者の首を刎ねよ!!」
「首を刎ねられるのはお前だよ!なあ皆?」
適当に近くにいたトランプ兵達に尋ねる。今の僕にとってはたかがトランプ、されどトランプ。無論、ハートの女王だって元を正せばトランプ。
「へ、は、はい!」
「革命だ、アリスが革命を起こしたぞ!」
傍聴席のボルテージが一気に最高潮になった。この程度で革命が起こせるならここの住民は余程のへっぽこだろう。いや、へっぽこだからこんな女王が統治出来ていたのだろうか。
「おら、飛びかかれ!」
僕の気持ちを思い知れ。無数のトランプ兵に群がられ絶望の表情を浮かべる女王を見て、何とも言い難い愉悦を覚えると同時に僕の視界は暗転していった。
目が覚めると、いつもの縁側に僕は寝転んでいた。一羽の青い蝶がひらひらと飛んでいる。そういえば不思議の国唯一の良心、物知り芋虫とは出くわさなかったが、もしかして無事に羽化出来たのだろうか。カエルになれないオタマジャクシのようで不安に思っていたのだが、そうならば一安心だ。
その時、ピンポーンとインターホンが鳴った。いそいそと玄関に向かい、僕は目をむいた。そこにはどこで買ったんですかと突っ込みたいくらいの、漆黒のドレスに身を包んだ美女が、これまたテカテカしていかにも不味そうなリンゴ片手に微笑んでいる。確かに美人なのだが、どことなく二番手の印象を受ける。
「隣に越してきた者です。つまらないものですが、これを」
「……はしょりすぎでは?」
僕のフルネームは有須みゆき。白雪と書いてみゆきと読む。
アリス君とおかしな隣人