テーマ:一人暮らし

声のパレット

この作品を
みんなにシェア

読者賞について

あなたが選ぶ「読者賞」

読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

閉じる

すると、パレットには、紫、白、赤、黄色の絵の具ができました。
ザハは、壁に色とりどりの花の絵を描きました。
そして、壁のお花畑から花をつんで、花かんむりを三つ作りました。
一つは、アーサーに、もう一つは、トーヤに。
最後の一つは、地面に置いて、その中に、ドングリたちを入れてあげました。
ドングリたちは、花に囲まれて、嬉しそうに踊り続けました。

それから数日の間に、次から次へといろいろな生きものたちが、この洞穴に落ちてきました。
カエル、こおろぎ、ガチョウ、ネコ、トカゲ、マングース。
「一体、どうしたんだろう。僕が落ちてから、本当に長い間、誰も落ちてこなかったのに…」
ザハは、不思議そうに言いました。
「ザハが落ちた後、あの穴は、ふさがってたんじゃないかな」
カエルが、ネコの声から作ったミルクをなめながら、言いました。
「あの嵐で、その穴がまた開いて、みんな落ちてきたんじゃないのかな」
マングースが、ガチョウの声から作ったボールで遊びながら、言いました。
今では、洞窟には、いろいろな声があふれていました。
いろいろな色があふれ、いろいろな物があふれていました。
「君の言う通り、しばらくはここから出られないんだから、とりあえず、いっしょに楽しく暮らそうや」
トカゲが、こおろぎの声で作った葉っぱのふとんにくるまって、あくびをしながら言いました。
ザハは、洞窟の中を見まわしました。
みんな、遊んだり食べたりしながら、うなずきました。

それから、どのくらいの時間がたったのか。
洞窟につながる穴は、どうやらまたふさがってしまったらしく、しばらくすると、新しいお客さんが来なくなりました。
洞窟の住人たちは、そんなことは気にもとめず、のんびり暮らしていました。
そんなある日。
地面にねそべっていたネコが、急に目を開けて、立ち上がりました。
「地震が来る!」
ネコがそう言い終わるか終わらないかのうちに、ゴゴゴゴという地響きとともに、洞窟がグラグラと揺れ始めました。
「うわーっ」
みんな、岩の天井が落ちてくると思い、一斉に頭を手でおおい、地面に伏せました。
洞窟は、しばらくの間、大きく横に揺れ続けました。しかし、幸い、天井は落ちてきませんでした。
揺れがおさまると、みんな、おそるおそる顔を上げました。
壁の近くに伏せていた犬が、何かに気がついて、洞窟の奥に入っていきました。
しばらくすると、犬が戻ってきて、言いました。
「みんな!さっきの地震で、出口ができた!」

声のパレット

ページ: 1 2 3 4 5

この作品を
みんなにシェア

5月期作品のトップへ