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「洞窟で一人暮らしなんて、寂しくないのかい」
お客さんが来るたびに、同じ質問をされる。
同じ質問には、同じ答え。
「僕は、一人でここに住んではいるけど、一人で暮らしているわけじゃないよ」
すると、大抵のお客さんは、不思議そうな顔をする。
そして、僕は、決まって思い出す。
この洞窟に、初めて、お客さんが来たときのことを。

 すごい雨だった!
 風もすごかった!
 野ねずみのアーサーは、大きな木の根のすきまから、ひょっこり顔を出し、空を見上げました。
昨夜は、一晩中、ここで雨やどり。
何も食べものがなくて、お腹がぺこぺこ。
「もう、目がまわりそうだよ」

アーサーは、野原に食べものを探しに出かけました。
アーサーは、野原に咲いている紫色の花が大好き。
「食べものを見つけたら、きれいなお花をながめながら、ゆっくりごはんだ」

野原を見て、アーサーは、びっくり。
紫のお花が、全部、倒れています。
「昨日の嵐のせいだ!」
アーサーは、がっかり。
いっそうお腹が空いてきました。
「仕方がない。食べものだけは、なんとか見つけないと」

アーサーは、とぼとぼと歩き始めました。
ところが、足もとにたくさんの倒れたお花があって、思うように前に進めません。
「歩きにくいなあ」
文句を言いながら、お花に上ったり、くきの下をくぐったり。
お花が数本、積み重なっているところにさしかかり、
「ここを上るのは面倒だ。飛び越えてしまおう」
アーサーは、ぴょんと飛び上がりました。
「あっ」
花の山の向こうに、大きな穴が!
アーサーは、穴の中に吸い込まれてしまいました。

ぴちょん!
冷たいしずくが、頭に落ちてきました。
アーサーは、ぱちっと目を開けました。
そこは、薄暗い洞窟でした。
岩の壁を、いくつかのランプが明るく照らしています。
「大丈夫かい?」
となりに、アーサーと同じくらいの背たけの男の子が立っていました。
「ここはどこ?君は誰?」
アーサーがきくと、男の子は言いました。
「僕の名前はザハ。僕も、君と同じく、あの穴からここに落ちたんだ」
ザハが、上を指差しました。
見上げると、遠くに星のような小さな光が見えます。
「あんなに高いところから落ちたのか!」
アーサーは、叫びました。
「そうさ。僕が落ちたのは、もうずいぶん昔のことで、君が初めてのお客さんだよ。君は、なんていう名前なの」
「僕はアーサー。よろしく」
「よろしくね」
二人は、握手しました。
そのとき、
「きゅ~~~~~」
と、アーサーのお腹が鳴りました。

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