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声のパレット

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アーサーは、真っ赤になりました。
「お腹が空いているのかい」
ザハが言いました。
「うん…昨日から何も食べていないんだ」
「パンと水なら、少しはあるよ。ちょっと待ってて」
そう言って、ザハは、洞窟の奥に姿を消しました。
(パンと水って…こんなところで、どうやって手に入れているんだろう)
アーサーは、不思議に思いました。

まもなく、ザハが戻って来ました。
右手にパン、左手に、コップに入った水を持っています。
「さあ、どうぞ」
腹ペコだったアーサーは、パンと水をあっという間に平らげてしまいました。
「助かったよ!でも、君がここに落ちたのは、ずいぶん昔って言っていたけど、パンと水をどうやって手に入れているんだい」
「簡単だよ。それは…」
ザハは、口をつぐみ、それから、ふと思いついたように言いました。
「そうだ、もっといいことがある。ちょっと待ってて」
ザハは、再び、洞窟の奥に姿を消しました。
戻って来たとき、ザハの手には、白いパレットがありました。
ザハは、言いました。
「アーサー、そこで声を出してみて」
「声だって?」
「そう。歌でも、おしゃべりでも、なんでもいいよ。さあ!」
ザハは、そう言って、パレットを頭の上にかざしました。
アーサーは、ザハのお願いに戸惑いました。
しかし、アーサーは、歌が得意でした。
パンと水をもらって、ちょうど元気が出てきたところだったので、アーサーは、大きな声で歌い始めました。
すると、どうでしょう。
ザハがかざしたパレットに、じわじわとオレンジ色の液体が湧いてきました。
液体は、アーサーが歌い続けると、だんだん大きくなっていきます。
そして、こぼれ落ちることもなく、パレットの上に広がっていきます。
「わあ!すごくきれいなオレンジ色だね!ありがとう、アーサー!」
ザハは、しゃがみこんで、足もとにあった水さしから、パレットに水を加え、混ぜ合わせました。
そして、空のビンに、そのオレンジ色の液体を入れ、ふたをしました。
アーサーは驚いて、歌うのをやめ、ザハのすることをじっと見ていました。
ザハは、パレットに少し残ったオレンジ色の液体と筆を使って、岩の壁に絵を描き始めました。
マンゴーの絵です。
輪郭から描き始めて、真ん中を塗りつぶします。
すると、そのマンゴーが、壁の中でムクムクと動き出し、ポコン!と音を立てて、壁から飛び出しました!
「おっと!」
ザハは、マンゴーを左手で受け止めました。そして、ニッコリ笑って、言いました。

声のパレット

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