テーマ:一人暮らし

シンデレラリミット

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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空を見上げる、星がきらめく。数少ない星から何万年も前の光が私に届く。アタシってばピュアだこと。あーくすぐったい。
下見たらモンシロチョウが無邪気にばたついてた。いいな。
……ねぇ、私の腕にも蝶がいるよ。タトゥーだけど。
小さな羽で、一生懸命羽ばたこうとしてるのさ。はは、気が合うねアタシ達。
付き合ってみる? ……キミなら、いいよ。なんてね。
ぱたぱたぱた。蝶が飛ぶ。夢中になって、飛ぶ。
「あなたはいいわね、まっすぐで」

□■room number 201 [M] 23:45□■□■□■□
暗い部屋。淡い夜色。
眠れない。眠れるわけがない。
起き上がって電気をつける。卵のようにうずくまる。
白い部屋。よく言えば清潔感。悪く言えば病院みたい。
考える。……考えるのって難しいな。そもそも考えることなのかな。
アロマキャンドルに火をともす。マグノリアの香り。この甘さに浮かびたい。
電気を消してやっぱりうずくまる。
顔が、少しだけだけどにやける。少しだよ。
40歳の誕生日まで、あと一ヶ月。最後の30代。大人になったなーって思ってた。
大人になりきったなーって。
なのに。
……告白されるなんて何年ぶりだろう。忘れていた。そんなもの。冗談と同じでしょうとしか思えなくなってた。それなのに。
しかも年下って。弟みたいなもんだよねって。かわいい後輩が、なにをそんないっちょまえに。本気です、なんて信じられません。それは嘘です。きっと嘘なんです。
心臓の音に体が揺れる。
カーテンを開けて、鏡で自分の立ち姿を見る。月明かりとキャンドルの明かりに私の体が
浮かびあがった。
私は、
綺麗だろうか。
困惑した顔で、緊張した顔で、私が私を見つめる。
泣きたくなって笑ってしまう。逆だろうか。
嬉しい。でも同じ分だけ不安がよぎる。これも逆だろうか。
小鳥が止まる壁掛け時計。小さな振り子がこっちこっちこっち。
つられて私もあっちこっちどっち。
鏡の前に立つ。髪をアップにして髪留めをつける。色っぽいかな。右だけ下して肩にかける。子供っぽいかな。どんなのが、好きかな。……少しは私、綺麗かな。
さんざん寝る前に悩んだのに。明日の髪型着てく服。つける口紅カバンと靴。
ため息のような、漏れ息のような、はあ。
胸と頭がけんかする。呼吸を整える。ああもう。ベランダに出て夜風にあたろう。
夜の風が入り込む。マグノリアの香りが流れ出る。
月が、いつもより近い気がした。
モンシロチョウが優雅に舞っていた。とても、ゆるやかに。

シンデレラリミット

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