テーマ:一人暮らし

シンデレラリミット

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読者賞について

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読者賞はノミネート掲載された優秀作品のなかから、もっとも読者から支持された作品に贈られます。

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なんでいっつもこうなんだろ。
いつもってあの人で何人目だっけ。でも今までの彼氏に比べたら私、すごいがんばったと思う。
待ち合わせとか全然遅れなかったし。向こうのバイト先まで会いに行ったりしたし。チョコとかちゃんとデパートで買ったし。
……始めて自分から告ったし。
なのにね。価値観が違うんだって。いーじゃんかそんなの違ってれば。
私、気に入ってるよ、このペンダント。安物でも。
なのに。もう。
鼻水をおもいっきりすする。
ちょうちょがぴたりと羽を閉じた。いいな。かわいいな。悩みなんてなさそう。
……やっぱり会って話そうかな。もうあいつもバイト終わるころだし。
ひらひらひら、蝶が羽ばたく。踊るように羽ばたく。
「あなたはいいわね、楽しそうで」

□■room number 202 [J] 23:00□■□■□■□
壁に掛かったモノクロの街。静かに光るオーディオのLED。
長い髪をバスタオルで巻きなおし、最低限の布でいい具合に育った胸と体を隠す。二本目のコロナが転がると、ついでに転がっていた携帯が鳴った。
アシュリー・シンプソンが歌ってシーブルーのランプが光る。いつものパターン、かな。
三本目のコロナを取りに台所へ。泣き止んだ携帯もついでに拾う。Line来てるわ。やっぱお前か。まあコイツがよこした専用携帯なんだから当然か。専用だって。はははは。
俺とお前のための専用回線。いつもこれで繋がってるから。あははは。
『電話出ろよ。なんで無視すんだ?』
くはははは。
「めんどくさいから」
ケータイを閉じる、冷蔵庫を開く、コロナを取る、ケータイをぶち込む、扉閉める。
お前も頭冷やせ。風呂上りのビールを不味くすんな。
やめたタバコを口にくわえて部屋に戻る。
雑誌とクッションを蹴散らす。
アクリルテーブルにコロナを置いて、茹でたブロッコリーをフォークで突き刺す。
コロナの栓を抜いて一気に半分減らす。
……飲みに行こうかな。
タバコに火をつけて、消した。
だから出るのはため息だけ。
窓を開ける。夜風はぬるい。ベランダに出る。半裸だけどまあいい。どうでも。それにもう隠すのも飽きた。
もう、疲れたんだよ。時間を気にして、人目を気にして、場所を気にして。アタシらしくもない。
アタシらしいのがなんなのかもよくわかんないけどさ、少なくてもアタシは男になんて流されないんじゃなかったっけな。付き合うなら、対等でしょ。間違ってなんかない。
余計な気は使わない。秘密なんていらない。嘘が必要なんて、嘘。

シンデレラリミット

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