テーマ:二次創作 / 鶴の恩返し

真夏の幻想

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歳下だとわかって気が緩んだのか、紡は敬語を使うのをやめたようだ。その途端、2人の間の空気が変わった。俺の心の中に温かいものが流れ込んできたのを感じた。
それから紡は、迷惑をかけたお詫びに何かお礼をさせて欲しいと提案した。俺は思わず、「だったら勉強教えてよ。」そう答えていた。
「いいけど…。私でわかる範囲なら…。」
紡は少し困ったように微笑んだ。
話し合いの結果、俺の夏期講習と紡のアルバイトが無い、水曜と金曜を2人の勉強の日に決定した。場所は俺のアパート。紡は俺の心の中を見透かしたように、
「でも、決して変な気は起こさないこと。あと、恋愛感情も禁止ね。あくまでも勉強を教えるだけだから。」とクギを刺した。
俺は少しがっかりしたけど、このまま紡との繋がりが無くなるのは寂しいと思い、しぶしぶ条件を呑んだ。
「それと…。」
「え?まだあるの?」素っ頓狂な声で聞くと、紡は急に真顔でこう言った。
「このことは私たちだけの秘密ね。決して誰にも言わないで。約束して。」
「え?なんで?」困惑を隠しきれず、俺は尋ねた。
「どうしても。お願い。これらの約束が一つでも破られた時点で、この契約はおしまい。」
あまりの真剣さに気圧され、俺は無意識に「わかった。」と答えていた。
気がつくとあたりはオレンジ色に染まり、いくらか気温も低くなっていた。夕暮れ時の柔らかな暖かさをまとった風が、紡のサラサラ流れる黒髪を優しくとかしていった。
「そろそろ帰らなきゃ。」紡はそう言うと、ゆっくり立ち上がった。
「今日は本当にありがとう。」
俺も立ち上がりながら、「いえいえ、どういたしまして。こちらこそ、これからよろしくお願いします。」と頭を下げた。
その後俺たちは連絡先を交換し、公園を出た。公園の入り口に黒い塊があった。よく見ると蟻が何かに群がっていた。
「あ!俺のアイス!」
俺はようやく無くしたアイスの存在を思い出し、バーだけになったアイスの亡骸を拾い上げ、紡の方を振り返った。そして2人は同時に吹き出した。

紡との勉強は楽しかった。最初こそ緊張したり、あれこれ妄想したり(笑)したが、彼女の俺に対する気持ちに恋愛感情は1ミリもないことがわかってからは、俺もいい加減不毛な妄想は諦め、勉学に集中することにした。
ある日いつものように紡と勉強していると、突然俺の携帯が鳴った。着信に「実家」と表示されていた。
「もしもし。」
聞き覚えのある声だった。
「ああ、うん。元気だよ。…うーん。週末には行けるかな?…うん。わかった。じゃ。」

真夏の幻想

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