テーマ:二次創作 / 鶴の恩返し

真夏の幻想

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「あちー。」
太陽はもう西の空に傾きかけているが、真夏の日差しは衰えることなく俺の頭上から攻撃を仕掛けてくる。
「やれるもんならやってみろ!」
心の中でそう叫びながら、アイスを持った右手を斜めに少し掲げた。すると突然、脇腹に激しい痛みがはしった。
「ぐわっ!」
声にならない叫びをあげ、俺は情け無くも尻餅をついた。
「いてててて…。え?なに?」
見ると俺の脇腹に女が乗っていた。正確には、倒れていた。
「ちょっと!どうしましたか?大丈夫ですか?」
若干パニック気味に俺はその女の体を揺すった。
「うーん…。」
女は青白い顔を少し歪めた。
「き、救急車…!」
俺は震える手でカバンの中に手を入れ、携帯電話を探した。
「ま…待って。大丈夫だから…。」
女は弱々しい声でそう言った。
「で、でも…。とても大丈夫そうには見えませんけど。」
未だ見つからない携帯電話の捜索活動を続けながら、俺は答えた。
「ちょっとめまいがしただけ。いつものことだから…。少し日陰で休んでいればすぐ治るから…。」
女があまりにも必死に言うので、俺は携帯電話の捜索を諦め、ひとまず日陰に避難することにした。ふと右を見ると、小さな公園があった。どうやら女は、この公園から出てきたらしい。その中の比較的日の当たらなそうなベンチに、2人並んで腰掛けた。
まだ辛そうだったので、俺は女に肩を貸し、ぐるりとあたりを見渡した。見ると少し離れたところに自動販売機があった。女が少し落ち着いたのを見計らい、「ちょっと待ってて。」そう言うと俺はスポーツ飲料を買ってきて、キャップを外してから女に渡した。
女はゆっくり、一口、二口飲み下すと、ぼんやりした目で俺を見上げた。そのあまりにも青白い顔に少し驚いたが、それより何より、俺をまっすぐ見つめる少し潤んだ切れ長の大きな瞳に、不覚にも心臓をわしづかみにされたような衝撃を受け、俺は少し後ろへよろめいた。
そんな心の動揺を悟られないように、俺はできるだけ平静を装い、先ほど座っていた場所にまた腰を下ろした。
「大丈夫?」
少しだけ顔を女の方に向けながら、俺は尋ねた。
「ええ。ありがとうございます。」と女は答え、「もう少し休んでいればすぐに良くなります。」と、切れ長の潤んだ瞳を閉じた。
俺はペットボトルを受け取ると、女が回復するまでしばらく肩を貸すことにした。
猛暑のせいか公園は人もまばらだった。夏休みの小学生が数人噴水のそばで遊んでいた。ベンチにはサラリーマンらしい男が1人、暑そうにネクタイを緩めながら缶コーヒーを飲んでいた。セミの声が子守唄のように、俺たちを包み込んでいた。

真夏の幻想

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