東京クロワッサン
卒業したら、どうするのかって?そんなもん、くそくらえだ。
突然ぶん殴られたみたいな昼間の体験もあってか、僕は部活もないのにしばらくオレンジ色の教室で外を見ながら、一人机に突っ伏していた。夏も近いのに、なんでか僕が見ている窓のところだけ、木はハゲかかっている。
急激に疲れを感じたみたいで、肩甲骨あたりになんとなくダルさがある。羽が生えていなくてよかったと、くだらないことを考えながら肩をぐるぐる回していた。そうこうしているうちに、今日が木曜日だということにふと気がついた。木曜日っていうのは、いつもそういう感じだ。知らないうちにやってきて、気がついた時には冷水かけるみたいに笑ってすぐにいなくなる。こんな日、なくてもいいのに。つまんないやつ、ね。
「あれ、まだいたんだ」
教室の入り口の方から、ワンテンポおいたような息の後に、夕方に似合わない声がした。
「まだいたんだー、って。まだいたんだ、むしろ」
話しかけてきたのは、高校で一番の親友だった。サッカー部に入っているけど、最近は受験勉強であんまり出ていないらしい。普通だったらとっくに引退しているわけだけど、僕と同じようになんとなくズルズル部活を続けていて、後輩から目の上のたんこぶみたいに煙たがられているらしい。もっとも、煙たがられているのは僕がそうだからであって、こいつがどうだかはよくわからない。でもきっと、みんなそういう感じだと思う。何かに打ち込むのはいいことだけど、固執し始めたらそれはもうガンと同じ感じだろう。
「まあね。自習室、残ってたんだよ。明後日模試じゃん?受けるでしょ?」
「受けないよ、別に受験するわけでもないし。金かかるんでしょ?だったら、なおさら」
えー!っとやつは声をあげた。わざとらしいんだよな、知っているくせに。
「でもさ、どうすんの?本当になんの?美容師」
こいつ、なんのために教室に戻ってきたんだろう?と僕は少し訝しげになっていた。そもそも、バッグは最初から持っていたし、こいつが参考書も教科書もノートも、毎回重そうにノーブランドのアタッシュケースに入れて運んでいるのも知っている。だから、教室になんて本当は来る意味ないんだ。やれやれ、と僕はため息を深くついた。
「わかんない」
「わかんないって、じゃあどうするわけ?」
「お前まで、そんな感じ?いやだねー」
なにが?といった顔で、やつは僕を見ていた。悪気はないんだ、こいつにも。それはいつも分かっている。でも、まさに僕をノックアウトした言葉を、そのまんま同じ場所で浴びせられたわけだから、僕も幾分いらだっていたんだと思う。
東京クロワッサン