不動産投資で法人化するメリット・デメリットは?注意点を理解して最適な行動をしよう

本記事では、不動産投資を法人化するメリットとデメリットを詳しく解説します。
記事の目次
不動産投資の法人化とは

不動産投資の法人化とは、個人でおこなっている不動産の運営を法人に移行することです。これまで個人で受け取っていた家賃収入は、法人の収入となり、オーナーは役員報酬として収入を得ることになります。
法人化と聞くと手続きが複雑で、従業員も雇わなければならないと思う方もいるでしょう。しかし、実際には運営主体が変わるだけで、不動産投資の業務内容に変化はなく、従業員を雇う必要もありません。
会社を設立する際は、法人化のメリットや適切なタイミング、注意点などを理解しておくと、より適切な判断がしやすくなるでしょう。
一般的には法人化した場合、所有する不動産の数が増えるほど得られる金銭的な恩恵は大きくなるといわれています。初めて不動産投資を始める場合でも、将来的に不動産の規模を拡大する予定があれば、最初から法人として不動産投資をおこなうのも選択肢の一つです。
不動産投資を法人化するメリット

不動産投資を法人化するメリットを詳しく見ていきましょう。
経費として計上できる範囲が広い
個人と法人では、経費の扱い方が異なります。個人の場合、所得は10種類に分類され、それぞれ異なる税率で所得税を計算。そのなかの「不動産所得」「事業所得」「譲渡所得」「山林所得」で生じた損失が損益通算できます。ただし、「不動産所得」でもすべてが損益通算できるわけではないため、注意が必要です。損益通算が不可となる不動産所得の損失には、次のようなものがあります。
- 別荘など生活では通常必要でない資産の貸付けに関わるもの
- 不動産所得の金額を計算したうえで、必要経費に算入した土地などを取得するために必要となる借入金の利子に対応した部分の金額
- 2021年以降の各年で、国外中古建物から生じた不動産所得の損失のうち、当該建物の耐用年数を「簡便法」などによって計算した減価償却費に相当する分の金額
参考:国税庁「損益通算」
一方、法人の場合は、収入の種類に関係なく、すべての収支が法人の事業活動として扱われます。そのため、すべての費用と損失を通算できるのです。例えば、個人では経費にできないが、法人化することで経費にできるものとして、次のようなものがあります。
- 生命保険の保険料
- 事業主への人件費
また、個人では不動産売買による譲渡所得は分離課税となることから、損益通算できません。しかし、法人化すると事業活動とみなされることから、他の事業で得た所得と合算できます。
さらに法人化すれば、代表取締役や役員への退職金積立も可能。退職金積立額はすべて経費扱いとなるため、法人の課税所得を少なくできます。
一般的に退職金には税制面での優遇措置があり、通常の役員報酬よりも低い税率が適用されます。そのため、退職金を積み立てることで、さらなる節税効果が見込めるでしょう。
下記が退職金にかかる税金の計算方法なので、参考にしてください。
所得税額 =(課税退職所得金額 × 所得税率 - 控除額)× 1.021(復興特別所得税含む)
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 |
20年超え | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 -20年) |
参考:国税庁「退職金と税」
不動産投資を始める方にとっては、個人と法人の経費扱いの違いがわかりにくいかもしれません。個人の場合、所得の種類によって税率が変わり、損益通算のルールも異なります。
しかし、法人であれば、すべての収支を一括して扱えるため、経理処理がシンプルになるのがメリットです。
所得や資産の分散により節税効果が期待できる
不動産投資で法人化をおこなう最大の利点は、課税対象となる所得や資産を分散させることで節税効果が期待できる点です。
法人化すれば、会社名義や役員名義で資産を保有することが可能です。家族を役員にすると、会社名義の資産から得た収入を、役員報酬として支払うこともできます。役員報酬を支払うことで、課税対象となる所得を分散できます。その結果、役員報酬にかかる所得税と法人税が軽減されるのです。
相続時の節税対策ができる
法人化することによって相続税の節税対策にもなります。法人が所有する物件は、仮に代表者が亡くなっても同法人のまま物件を所有し続けることができるため、相続税はかかりません。ただし、物件を保有する法人の株式などは相続税の対象となるので注意が必要です。
また、通常、複数の相続人が物件を共有名義で相続する際はトラブルが起きがちですが、法人化することで防ぐことが可能です。トラブルを避けるためにも、ぜひ頭に入れておきましょう。
他にも、役員報酬は、相続財産ではなく報酬として扱われるため、相続税がかかりません。相続人を役員にして役員報酬を支払うことで、相続分の先渡しと同時に財産を移せます。事前に対策しておくとよいでしょう。
損失を長期にわたって繰り越しできる
法人でその年の収支がマイナスとなった場合、その赤字分は翌年以降に繰り越せます。そして次の年以降に利益が出た際は、その利益から赤字分を差し引くことが可能です。
個人と法人では、赤字を繰り越せる年数に大きな違いがあります。法人の場合は、赤字の繰越期間が10年ですが、個人の場合は、赤字の繰り越し期間が3年間と決められています。
法人のほうが赤字を長期にわたって繰り越せるため、将来黒字になった際、税負担を軽減できるでしょう。
融資を受けやすくなる
個人と比べて法人の方が、融資の審査に通りやすいメリットも。法人は登記によって会社情報が公示されていたり、より詳細な決算処理が必要なため、個人よりも社会的信用が高くなるでしょう。
また、健康リスクについて金融機関から考慮されない点も、融資が受けやすくなる要因の一つといえます。
減価償却するかを選べる
個人と法人では減価償却費の取り扱いが異なります。減価償却とは、不動産の取得費用を長期間に分割して経費に計上する会計処理のことです。ここで分割された金額が「減価償却費」となります。
例えば、1,500万円の物件を10年間で減価償却する場合、1年あたりの減価償却費は150万円です。
減価償却費は経費のなかでも金額が大きく、会計上の収支を左右する重要な要素です。
個人の場合、減価償却費は計算された金額をそのまますべて経費計上しなければなりません。例えば建物の減価償却は、経年劣化で目減りした価値を金額に換算する必要があります。一方法人であれば、減価償却するか選べ、する場合には年ごとに減価償却額を決められるのです。
ある投資物件で年間の家賃収入が70万円、減価償却費が100万円だとしましょう。個人の投資であれば30万円の赤字となりますが、法人であれば減価償却費の上限となる100万円以内で減価償却額を自由に決められます。つまり、減価償却費を69万円以下に設定すれば、黒字決算となるのです。
金融機関から融資を受ける際は、収支が黒字であれば有利になる傾向にあります。法人であれば、減価償却費を調整して収支を黒字にさせ、その後の融資条件を有利に進められる可能性が高まるのです。ただし、金融機関によっては減価償却費の調整を認めない場合もあるため、注意しましょう。
決算月を選べる
不動産投資で法人化するメリットの一つに、決算月を自由に設定できる点が挙げられます。
個人で不動産投資をおこなう場合、税法上で事業年度が1月1日から12月31日までと決まっていることから、自動的に決算月は12月となります。しかし法人であれば、決算月を自由に選べるため、節税対策を計画しやすくなります。
例えば、2月から4月は一般的に入退去が多く、収入が不安定になりがちな時期です。もしこの時期に事業年度の最後を設定すると、収入計画を立てにくくなり、適切な節税対策を取るのが難しくなってしまいます。
また、税理士などの専門家によるチェックを厳格におこないたい場合は、確定申告や企業決算が集中する3月や9月を避けたほうがよいでしょう。
不動産投資を法人化して会社を設立するデメリット

次に、不動産投資で法人化するデメリットを見ていきましょう。
法人の設立費用がかかる
不動産投資で法人化をする際の大きなデメリットは、設立にともない、さまざまな費用や税金が発生することです。法人設立時に最低限かかる費用としては、「定款(ていかん)認証」や「登録免許税」、「収入印紙代」などが挙げられます。また、法人設立の手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は、手数料も用意しておかなければなりません。
定款とは、会社の根本的なルールを定めた重要な規則のこと。専門的な知識が必要なため、司法書士などの専門家に作成を依頼するのが一般的です。司法書士への依頼費用は、登記手続きまでを含めると10〜20万円程度をみておくといいでしょう。
登録免許税は、法人設立の登記申請時に納付する税金です。資本金額に対して税率0.7%と決まっており、株式会社の場合の最低額は15万円、合同会社であれば最低額は6万円となります。また、定款には収入印紙を貼付する必要があり、資本金額によって3〜5万円程度の費用がかかるでしょう。ただし、電子定款で手続きをおこなえば、収入印紙代はかかりません。
このように、会社を設立するだけでも数十万円の費用がかかります。初めて法人を設立する方は、上記の費用を把握しておくことが大切です。
法人住民税が毎年最低でも7万円かかる
法人住民税は、法人に課される地方税です。法人の所在地の都道府県と市町村の両方に納めなければなりません。東京23区内に本社がある法人の市町村分は、都民税に含まれます。法人住民税では、法人の所得額に応じて決まる「法人税割」と、会社の規模に応じて決まる「均等割」の合計額を納付しなければなりません。
個人事業の場合、所得がゼロであれば住民税は課税されません。しかし法人の場合、利益がマイナスであっても法人住民税の支払いが義務付けられています。例えば、資本金が1,000万円以下の企業は、収支がマイナスであっても最低限7万円の法人住民税(都道府県民税均等割:2万円、従業者数50人以下の市町村民税均等割:5万円)を納税しなければなりません。
参考:総務省「法人住民税」
このように個人事業とは異なり、法人は赤字決算であっても一定額の税金を払わなければならないのが大きなデメリットの一つです。
お金の使い方が制限される
法人の利益は、会社の余剰金と呼ばれます。たとえ自分が経営する会社であっても、個人のように余剰金を自由には使用できません。自身が使えるのは、役員として受け取る報酬のみです。
では役員報酬を多く設定すれば、使えるお金が増えると考える方もいるでしょう。しかし、役員報酬を多くすると個人の所得が増え、かえって所得税率が高くなってしまうため、注意が必要です。
長期保有後の売却益にかかる税金の優遇がない
個人の場合、売却益は「譲渡所得」と呼ばれ、譲渡所得にかかる税率は、所有期間が5年以内か5年を超えるかで異なるので注意が必要です。5年以内であれば「短期譲渡所得」となり、約39%の税率が適用されます。一方で5年を超えると「長期譲渡所得」になり、税率が約20%にまで下げられるのです。
一方法人の場合は、法人全体の収益を含めたうえで法人税、住民税、事業税がそれぞれ算出されます。上記の3つの税率を合計した割合が実効税率と呼ばれる指標です。現在の実効税率は約30%とされています。
個人と法人の譲渡所得を以下の表で比較してみました。
短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 | |
---|---|---|
個人 | 39.63% (所得税:30%、住民税:9%、復興特別所得税:0.63%) |
20.315% (所得税:15%、住民税:5%、復興特別所得税:0.315%) |
法人 | 約30~35% | 約30~35% |
所有期間が5年以内であれば個人の方が税率が高いですが、5年超えの長期保有物件を売却した場合には、法人のほうが高い税率となってしまうのです。長期保有後の売却であれば、個人のほうが有利になる可能性があります。
法人の決算申告をしなければならない
不動産投資で法人化すると、法人としての決算申告が義務付けられます。決算とは、会社が決めた決算月で会計を締め切り、その期間の業績を集計する作業のことです。毎月の仕訳をおこない帳簿を作成し、決算月になると申告書類を作成して税金の計算をしなければなりません。
法人となった場合、ほとんどの企業が決算処理を顧問の税理士に依頼しています。税理士に依頼するには、手数料の支払いが別途必要です。
また、法人の決算申告は、個人の青色申告よりもさらに手間がかかります。特に、会社員の場合は本業の忙しい時期に決算作業をしなければならないため、体力面や精神面にも負担がかかってしまうでしょう。
会社員の場合は、多少の手数料を支払っても専門家に任せたほうが手間や時間をカットできるのでおすすめです。
会社員の場合は副業とみなされる場合がある
不動産投資を専業でおこなわず、会社に勤めながら不動産投資を法人化しておこなう場合、勤め先によっては副業とみなされる可能性があるでしょう。
会社によっては副業を禁止しているケースや、公務員は法律によって副業が制限されています。場合によって、免職などの処分が下ることもあるので、事前に副業が可能な職場か確認をしましょう。
不動産投資で法人化するタイミング

不動産投資で法人化する際は、タイミングを見極める必要があります。一般的には、下記の2つのタイミングで法人化するとよいといわれています。
- 課税所得が900万円以上の時
- 不動産投資を始める時
なぜ上記のタイミングが適しているのか、その理由とメリットを詳しく見ていきましょう。
課税所得が900万円以上の時
一般的には課税所得が900万円を超えたタイミングが法人化する時期の目安とされています。それは、課税所得が900万円を超えると、法人税率が下がるためです。資本金1億円以下で課税所得800万円以下の部分については、15%となっています。具体的に計算しながら見ていきましょう。
参考:国税庁「法人税の税率」
課税所得900万円の場合
【個人の所得税額】
・課税所得金額×33%-控除額=所得税額
900万円×33%-153万6,000円=143万4,000円
【法人の所得税額】
・課税所得800万円以下の部分の所得税額
800万円×15%=120万円
・課税所得800万円を超える部分の所得税額
100万円×23.2%=23万2,000円
合計
120万円+23万2,000円=143万2,000円
課税所得が900万円の時、法人の所得税額のほうがわずかですが低くなっていることがわかります。
ただし、個人で所有していた投資用物件を法人に移転する場合には、不動産取得税と登記費用が発生するので注意が必要です。
大規模な事業を視野に入れるなら初めから法人化したほうがよいですが、少額から始めたい場合もあるでしょう。そのような時は、課税所得が900万円を超えそうな段階で細かくシミュレーションし、法人化でメリットをしっかり得られるのかを慎重に検討する必要があります。
不動産投資を始める時
初めから法人として活動実績と融資実績を積み重ねていけば、将来的に不動産投資の規模を拡大する際、金融機関から有利な条件で資金調達ができる可能性が高まります。
さらに、所有から5年以内で物件を売却する場合も、法人のほうが税率を抑えられます。
また、前項で解説したように投資用物件を個人から法人に移転する場合には、費用がかかります。最初から法人化しておくと1回で済ませられるでしょう。
計画的な資産形成を目指すなら、投資開始時から法人を設立するのがおすすめです。
まとめ
本記事では不動産投資の法人化について解説しました。
不動産投資で長期的に利益を得たいと考えている方は、法人化して取り組むのもおすすめです。ただし、会社を設立することで多くのメリットを得られますが、その反面注意しておくべき点もあります。安易に法人化すると税金の負担が増えたり、費用の負担が大きくなったりする可能性もあるので、注意点を十分に理解してから検討しましょう。
最初は個人の不動産投資をはじめ、軌道に乗ったタイミングで法人化するとよいでしょう。

執筆者
民辻伸也
宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大学を卒業し、投資用不動産会社に4年勤務後、選択肢を広げて一人ひとりに合わせた資産形成をおこなうため、転職。プロバイダー企業と取引し、お客様が安心感を持って投資できる環境づくりに注力。不動産の仕入れや銀行対応もおこなっている。プライベートでも、自ら始めた不動産投資でマンション管理組合の理事長に立候補。お客様を徹底的にサポートできるよう、すべての経験をコンサルティングに活かしている。
株式会社クレア・ライフ・パートナーズ