障がい者が一人暮らしをする時に知っておきたいポイントや支援制度をご紹介

そこで今回は、安心・安全な毎日を送るために、障がいがある方が一人暮らしをする際に覚えておきたい、基礎知識を解説していきます。
記事の目次
障がいがあっても一人暮らしできる?

内閣府の平成25年版障害者白書「障害者の状況等(基礎的調査等より)」によれば、障がいがある方の生活状況に関して、以下のようなデータが出ています。割合としては少ないようにも見えますが、実際に一人暮らしをしている障がいがある方は、一定数いることが明らかになっています。特に身体的・精神的な障がいがあるケースでは、1割以上が一人暮らしをしているとの結果に。障がいがあっても、一人暮らしを検討する余地は十分にあるといえます。
同居者の有無
同居者有 | 同居者無 | 不詳 | |
---|---|---|---|
身体障がい者 | 84.7% | 10.9% | 4.4% |
知的障がい者 | 94.7% | 4.3% | 1.0% |
精神障がい者 | 81.2% | 17.9% | 1.1% |
資料
:厚生労働省「身体障がい児・者実態調査」(平成18年)
:厚生労働省「知的障がい児(者)基礎調査」(平成17年)
:厚生労働省「精神障がい者社会復帰サービスニーズ等調査」(平成15年)
参照:内閣府 平成25年版障害者白書「障害者の状況等(基礎的調査等より)」
一人暮らしをする時に必要なこと・費用は?

実際に一人暮らしを始めるにあたり、どのような準備をしておくべきなのか、以下から詳しく見ていきましょう。
一人暮らしをする時に必要なこと
一人暮らしをするにはまず、次のような準備を進めていく必要があります。
物件を探す
大前提として考えておきたいのが、生活の基盤となる住居です。例えば車いすを使うのであれば、部屋の出入りや移動がスムーズにできるかなど、実際の日常動作やライフスタイルをしっかりとイメージしながら検討しましょう。不動産会社に相談する際には、生活に支障のない物件を探し出すために、自分自身の状況を正確に伝えることも重要です。もしくは、日ごろからサポートを受けている支援員や団体に相談してみる方法もあります。「住宅確保要配慮者居住支援法人」と呼ばれる、障がい者の賃貸入居をバックアップする団体もありますので、住まい探しが難しい場合にはこうした専門家に頼ってみるのもよいでしょう。
家具・家電など必要なものを揃える
住まいが決まったら、次は生活アイテムとなる家具・家電を用意していきます。一人暮らしの入居先と同じく、自分自身がどう生活していくのか十分に考慮しながら、必要なものを揃えていきましょう。なお以下の記事では、初めての一人暮らしで準備しておきたい、生活必需品をリストアップしています。大学生向けではありますが、全世代に共通して必要となる部分も多くあるので、ぜひ参考にしてみてください。
各所で手続きをする
一人暮らしにともなって居住地が変わる場合には、各所に登録している住所情報を変更する必要があります。役所での住民異動届は必須となるので、忘れずに届出をするようにしましょう。その他にも、銀行や郵便などの各種サービスの住所変更など、必要に応じて手続きを進めていきます。また障がい福祉サービスなどを利用している場合には、地域の介護福祉課など、所定の機関での住所変更も欠かせません。なお以下の記事では、引越し時におこなう手続きを一覧化してご紹介しています。ぜひあわせてチェックしてみてください。
一人暮らしをする時に必要な費用
当然ながら一人暮らしでは、家賃や光熱費など、さまざまな費用がかかります。さらに新生活をはじめるには、物件に入居するための敷金・礼金や生活アイテムの購入費などの初期費用も発生します。一人暮らしに向けて必要な費用の項目例としては、次のようなものが挙げられます。
- 物件の敷金・礼金
- 家賃
- 賃貸物件の仲介手数料
- 引越し会社の利用料金
- 家具・家電の購入費
- 物件の管理費(共益費)
- 電気代、ガス代、水道代
- インターネット・通信費
- 食費・日用品費
- 趣味や洋服、交際・交通などの諸費用
なお以下の記事では、一人暮らし経験者にアンケートをおこない、実際にかかる費用の金額なども詳しくご紹介しています。ぜひ、こちらもあわせてチェックしてみてください。
障がい者が一人暮らしをする時に意識したいポイントは?

実際に、障がいがある方が一人暮らしを考える際は、特に以下のような部分に注意して検討しましょう。
自身の障がいのこと
自立した生活を始める際には、改めて自分にはどのような障がいがあるのか、把握し直すことも重要です。障がいの種類や程度をしっかりと理解することで、どのような住環境を整えるべきなのか、より的確な判断がしやすくなります。生活に必要な設備や支援などを考えると同時に、現実的に一人暮らしを続けていくイメージができそうか、きちんと見極めることにもつながるでしょう。似たような障がいがありながら一人暮らしをしている方の事例など、自分なりに調べてみるのもいい方法です。
物件が見つかりにくい場合があること
例えば車いすでも移動しやすいなどのバリアフリー物件は、そもそもの母数が少なく、物件を探すのが難しい一面もあります。なお就業していない場合は、「収入が安定しない」などと判断されてしまい、入居審査が通りづらいことも。さらには、本来であればあってはならないことですが、なかなか大家さんなどの理解が得られず障がいを理由に入居を許可されないケースもまれに存在します。また、希望の条件が増えるほど選択肢も狭まりやすく、いい物件を見つけるのに時間がかかる可能性も。物件探しのための準備期間は、十分に確保しておくのが無難です。
自分で生活費を賄う必要があること
一人暮らしになった場合、日々の買い物や公共料金など、自分で支払いながら管理していくのが基本です。きちんとやり繰りせずに支出してしまうと、例えば年金や仕送りなどの収入があったとしても、お金が足りなくなってしまうケースも。節約をしたり、場合によっては収入を増やす方法を考えたりする必要も出てきます。自分自身で生活費を確保しなければならない点も、十分に考慮しておきたい部分です。
一人暮らし以外の選択肢もあること
もし「親元を離れた生活がしたい」との観点から一人暮らしを考えるのであれば、グループホームやサテライト型住宅など、福祉施設に入居する方法もあります。福祉施設の場合は、基本的に共同生活がベースとなるので完全な一人暮らしとは少し異なりますが、家族から自立する意味では選択肢に入れておくのもおすすめです。
障がい者が物件を探す時に意識したいポイントは?

より生活しやすく安全な住環境を整えるには、次のようなポイントを意識した物件選びをしていくのがベストです。
バリアフリーな物件か
特に身体的な障がいがある場合には、日常動作のしやすさは十分にチェックするようにしましょう。例えば、エレベーターの有無・玄関や廊下の広さ・トイレの入りやすさ・キッチンや洗面台の高さなど。内見時には、室内で無理なく動けるか、家事はしやすいかなど、実際の生活動線をイメージしながら部屋の様子をしっかりと確認するようにしましょう。外せない条件は、あらかじめ不動産会社の担当者に漏れなく共有しておくと、物件選びもスムーズになります。
管理会社・大家さんや住民の理解を得られるか
例えば補助犬の援助が必要だったり、車いすや杖などで生活音が響きやすかったりなど、場合によっては周囲への影響が大きくなりやすいケースも考えられます。こうした障がいにともなう生活状況に対して、物件オーナーや近隣住民の方も含めてあらかじめ理解を得ておくことも、お互い快適な暮らしをしていくためには重要です。物件紹介や内見時には、部屋の設備などの目に見える条件だけでなく、周りの方々との認識のすり合わせができるか事前に相談しておきましょう。
困った時に頼れる場所が近くにあるか
できれば通院している病院や、支援センターなどの相談窓口が近くにある物件のほうが、何かあってもすぐに頼りやすくて安心です。特に通院先などは、あまり遠いと日常的にも不便に感じてしまいます。なるべく困った時のサポートが受けやすい環境を選んでおくと、気持ち的にも心強いでしょう。
障がい者が一人暮らしをする時に受けられる支援は?

各自治体や公共団体などでは、障がい者の一人暮らしに向けた、さまざまなサポートを提供しています。具体的に、障がい者の一人暮らしで活用できる支援として、次のようなものがあります。
地域生活支援
各自治体では、障がいのある方の一人暮らしや社会参加を支援する事業を実施しており、地域によってさまざまなサポートを提供しています。例えば、日常動作を補助する用具の貸出や、屋外移動の介助、手話通訳者の派遣など。各自治体の福祉窓口などに相談して、個々の状況に応じたサポートを受けることが可能です。
日常生活自立支援
おもに社会福祉協議会が実施している、知的障がいや精神障がいがある方などの判断能力をサポートする事業です。例えば福祉サービスを適切に利用できるように助言したり、住民異動などの行政手続きを援助したりなど。その他にも、公共料金や医療費の支払いといった、日々の金銭管理などの支援にも対応しています。複雑な判断が必要な場面で、生活支援員などの専門家によるサポートを受けることが可能です。
自立生活援助
障がいのある方の自立した一人暮らしに向けて、地域生活支援員による各種サポートを提供する事業です。おもに地域生活支援員の定期訪問を通じて、日常生活の相談対応・助言や障がい福祉サービス関係機関との連絡調整などを実施しています。また利用者からの支援要請があれば、その都度、必要に応じた対応もおこなっています。
居宅介護支援
おもに障がい支援区分1以上(または同等の障がい児)の方を対象に、ホームヘルパーが各自宅を訪問して、日常生活全般のサポートや相談対応などをおこなう福祉サービスです。入浴・排せつをはじめとした身体介護の他、調理や洗濯などの家事や病院への付き添いも含めて、居宅生活にともなう幅広い支援を受けられます。
その他の支援
ここまでにご紹介した支援事業だけでなく、例えば重度障がいに特化した訪問サービスなど、多岐にわたるサポートがあります。もしどのような支援を受けるべきなのか、判断が難しければ、各種相談窓口で聞いてみるのもおすすめです。次の章からは、具体的にどのような相談先があるのかも見ていきましょう。
障がい者が一人暮らしをする時の相談場所は?

障がいがある方の一人暮らしで、もし何か悩んだり困ったりしたことがあれば、以下のような相談先を頼る方法もあります。一人暮らしに限らず、信頼できる相談先を見つけておくと安心です。
主治医・担当者
通院または通所している医療・福祉機関がある場合には、その主治医や担当の職員などに相談するのがおすすめです。普段から支援をしてくれている医師や担当者なら、身体機能や障がいの状況なども十分に把握しています。こうした理解があるからこそ、どのようなサポートが必要なのか的確なアドバイスをもらえる場合が多く、また慣れた相手であれば気軽に相談しやすい利点もあります。
自治体の障がい福祉課
各地域の市区町村役場には、障がいのある方の生活全般に関する相談窓口となる、福祉課が設置されています。どの相談先に頼るべきか判断に迷う時には、まずは各自治体の福祉課に問い合わせてみるのがおすすめ。各地域で対応している支援サービスまで連携してもらうことが可能です。さらに個々の状況に適した、相談先や関係機関を教えてもらうこともできるため、何か悩んだ時には福祉課に聞いてみるのが無難でしょう。
基幹相談支援センター
基幹相談支援センターは、障がいのある方やそのご家族の相談全般を受け付けている総合窓口で、日常の悩みや困り事などにも幅広く対応しています。各地域でおこなっている支援事業に限らず、生活上の不安なども含めて、さまざまな相談ができる機関でもあります。その他、地域移行や成年後見制度の利用支援なども手がけており、地域の相談支援施設の中心的な役割を担っています。ちなみに基幹相談支援センターは、社会福祉法人などによる相談支援事業所や各地域の役所に併設されているのが一般的です。
特定相談支援事業所
特定相談支援事業所は、おもに障がい福祉サービス利用時に特化した相談窓口で、適切な支援を受けるためのサポートを担っています。各自治体の障がい福祉サービスを利用するには、所定の計画書を作って提出する必要があります。この計画書の作成を代行しているのが、特定相談支援事業所です。どのような障がい福祉サービスが適しているのか、個々の状況に応じて、提案してもらうことができます。また障がいのある方の自立した生活に向けた、相談支援や情報提供などにも対応しています。
一般相談支援事業所
一般相談支援事業所は、おもに地域移行および地域定着をサポートする相談窓口です。病院や福祉施設を出て居宅生活をはじめたり、家族などと離れて一人暮らしをしたりする際に、自宅で住むためのさまざまなサポートをおこなっています。例えば一人暮らしをする障がい者に対しては、年中無休の連絡体制を確保し、緊急のトラブルにも常時対応できる支援サービスを提供しています。またその他にも特定相談支援事業所と同様に、日々の暮らしでの困り事の相談もでき、障がい福祉サービスなどのアドバイスを受けることも可能です。
友人
もしここまでに見てきた各機関への相談が難しければ、信頼できる友人に話を聞いてもらうのもいい方法です。手助けを名乗り出てくれたり、支援サービスに関する有益な情報を教えてもらえる可能性もあります。一人暮らしに限らず、ちょっとした悩みが相談できる友人がいると何かと安心ですね。
まとめ
よりベストな住環境を整えるのに手間や時間はかかるかもしれませんが、現在は地域の福祉制度なども充実してきており、障がいのある方の一人暮らしもしやすい状況へと少しずつ進んできています。また障がい者の一人暮らしのサポートに対応している相談窓口も多くあるので、自立した新生活を考えている際には、ぜひ活用してみましょう。今回ご紹介した支援制度なども参考にしながら、どのような一人暮らしができそうなのか検討してみてください。